【第715回】 密教と曼陀羅と合気道

合気道をつくられた大先生は、合気道を精進するために、「武を修する者は、万有万神の真象を武に還元さすことが必要である。たとえば谷川の渓流を見て、千変万化の体の変化を悟るとか、また世界の動向、書物をみて無量、無限の技を生み出すことを考えるとかしなければいけない。」(合気神髄 P.106)と言われている。これは合気道だけをやっていても限界があり、精進出来ないし、また、身の回りにあるモノすべてから学ぶことができると言われているのである。

今回は、密教と曼陀羅から教えを乞いたいと思う。何故、密教なのかというと、密教の修行の目的は仏との一体化であり、そして合気道は宇宙との一体化であるから、目指しているものは同じであると思うからである。また、それ故、その目的を達成する為にいろいろ学べることがあると思うからである。

密教は仏と一体となるために三密を駆使する。体と言葉と心(印契、真言、仏の姿にイメージ)である。この典型的なモノが加持であるという。加持によって、仏が我に入り、我が仏に入っている「入我我入」になるという。
加持では真言を唱え、胡麻を炊き、太鼓をならし、きらびやかな衣装をつけ、印を結ぶ。五感を総動員するという。
そして重要なのが曼陀羅である。密教にとって曼陀羅は絶対に欠かせない要素であるという。曼陀羅には他の仏教画と次のような形の違いがあるという。
○対称形 ○円形 ○閉鎖形

曼陀羅は幾何学的な模様で、円くて完全なもの(輪円具足)である。合気道の基本も○□△である。密教も合気道も○□△(曼陀羅には△が○□のようにはっきり表れないようだが、良く見ると△もある)を重視しているのが面白いし、当然だとも思う。深層心理学者ユング博士は、これを人類の共通性であり、集合無意識といっている。つまり、人類が無意識で持っている生きる糧であるという。

次に曼陀羅の役割である。この役割には次のようなモノがあるという。

これを合気道と対比してみると、 合気道もただドタバタ稽古をすればいいということではなく、よりしろをつくり、その場の邪悪を取り除き、宇宙の営みや開祖の姿形をイメージして稽古をしなければならないことになるだろう。

密教は加持祈祷や胡麻儀式など異空間のパーフォーマンスで生命力の活性化を図り、仏に近づこう、一体化しようとしているという。
合気道も非日常的な異空間で技の錬磨を通し、宇宙の営みを身につけ、宇宙との一体化を図ろうとしていることは、密教も合気道も異空間のパーフォーマンスをしていることになる。

さて、密教と仏教の大きな違いの一つに、仏教は悟るのに長大な時間が掛かるとされ、今生で悟ることは出来ないとされるのに対し、密教は現世で悟ることが出来るのである。例えば、空海である。空海は生きている間に悟り、仏と一体化を成功させたのである。
因みに、この密教と仏教の大きな違いは、合気道と他の武道との間にもある。
大先生は、「今までの武道は、長い年期を入れないと自分になれなかったのですが、私はすぐにも了解し得る道を開いたのであります。それだけ今までの武道と合気道は違うのであります。(武産合気 P.39)」と言われているのである。

しかし密教の素晴らしさはこの先にある。他の仏教は悟るためにどうするかで修業しているのに対し、密教は悟ったらどうするかに進むのである。言うなれば、小乗と大乗ということになる。初めは自分の悟りの為に修業し、悟ったら、今度は世の為、人の為に悟ることである。これを利他行といい、密教の究極の悟りであるという。
弘法大師空海が、今もって敬われ、親しまれているのはこの究極の悟り、利他行の悟りを得、それを実行し、成功させたからであると考える。例えば、香川県にある満濃池(まんのういけ)の改修、甲府盆地を流れる釜無川(かまなしがわ)と御勅使川(みだいがわ)の合流部の改修工事等々。

さて、合気道である。合気道の修業の目標は、「宇宙との一体化」と「地上天国の建設」「宇宙楽園の建設」であると教えられているわけだが、この密教の小乗、大乗の教えで明確になる。
つまり、「宇宙との一体化」は小乗の己自身のための悟りであり、「地上天国の建設」「宇宙楽園の建設」は大乗の利他行の究極的な悟りということになるわけである。
合気道の利他行もこれまでは難しかったが、合気道では出来ると大先生は「嘗っては役ノ行者の如く印形をもって、処理し法を修したけれど、すべての罪障を浄めるのにつとめられてご苦労様だけど、吾人は進んで今日の世界の浄めを、和合の合気道によってご奉公させて頂くのであります。(武産合気 P.111)」と言われているのである。

合気道開祖の大先生は、先ずは己自身が宇宙と一体化するように悟り、そして世の為人の為に生成化育するように悟れと言われておられるのである。

参考文献   NHK教養講座 「こころの時代〜宗教・人生〜 シリーズ マンダラと生きる」