【第706回】 魂を表に出すのは阿吽の呼吸

合気道は魂の学びであり、魂を表に、魄を土台にした技をつかわなければならないわけだが、それでは魄の力に頼らなくなり、魂を表に出して技をつかうためにどうすればいいのかという事になる。
「魂を表に、魄を土台にした技をつかわなければならない」も大先生の教えであるが、「魂を表に出して技をつかうためにどうすればいいのか」も大先生は教えておられる。それでは、大先生はどのように教えられているかというと、例えば、「魄力でやってゆく国は、最後は上手くゆかない。阿吽の呼吸でやってゆくこと、あくまで魂を表に出すことである。(武産合気 P.103)」と言われているのである。しかし、このままでは分かりづらいので、「国」を「技」と換えてみれば分かり易い。つまり、「魄力でやってゆく“技”は、最後は上手くゆかない。阿吽の呼吸でやってゆくこと、あくまで魂を表に出すことである。」となる。合気道の教えは、時間空間を超越した、つまり万有万物に適用する宇宙の教えであるから、「国」を「技」にも適用できるわけである。柔軟な頭でないと、大先生の教えは中々理解が難しいことになる。

そして更に大事な事は、「阿吽の呼吸でやってゆくこと、あくまで魂を表に出すことである」。ここで大先生は、魂を表に出すためには、阿吽の呼吸でやることであると言われているのである。つまり、阿吽の呼吸でなければ魂を表に出すことはできないという教えなのである。

しかし、阿吽の呼吸をつかうのも容易ではないだろう。阿吽の呼吸がどんな呼吸なのか、他の呼吸とどこがどう違うのか、どうすれば阿吽の呼吸ができるのか、阿吽の呼吸で何故魂が表に出てくるのか等々を理解し、そして身につけなければならないからである。

更に魂を表に出して技をつかう場合、前にも書いているように、魄の土台をしっかりするよう魄を十分鍛えなければならない。そして、その十分に鍛えた魄の力の土台をつかわずに、土台の表に出る魂で技をつかうのである。この魄の力に陥らないのは至難のわざなのである。

また、阿吽の呼吸のためには、「身心統一が肝要」であり、「念を五体から宇宙と気結びし、宇宙の中心に立つことである」と大先生は言われている。
そして、「阿吽の呼吸は五体のひびきであり、千変万化する」とも言われている。これによって五体のひびきと宇宙のひびきとが同一化して相互交流し、技が生まれるというのである。勿論、五体と宇宙の異質のものが同一化したり、相互交流するのは「気」(生命力)である。これを「気の妙用」という。この「気の妙用」にも阿吽の呼吸が必要不可欠なのである。

これらは私が考えた事ではなく、大先生の下記の教えを引用、解釈したものであるから信じなければならないことになる。
「武道の奥義は、念を五体から宇宙と気結びし、同化して生死を超越し、宇宙の中心に立つことである。このようにして出た技は、愛の恵みの技となるのである。これは武産合気。これが結びはひびき、それは五体のひびきである。阿吽の呼吸である。これは千変万化するのである。これには初めに述べた技の発兆の土台、身心統一が肝要である。
宇宙のひびきと、同一化すること。そして相互交流。この変化が技の本となるのである。すなわち、「気の妙用」である。五体と宇宙のひびきの同化。これにより光と熱と力が生まれ、この現象は微妙な妙用である。」(合気神髄 P.176)

阿吽の呼吸で、魄を土台に、魂を表に出して技をつかえるようになると、相手の魄の力は抜け、相手とくっつき、魂(念、心)で相手を導くことができるようになる。阿吽の呼吸で、魄を土台に、魂を表に出す稽古は、片手取り呼吸法、坐技呼吸法、後ろ両手取等が分かり易いようなので、これらの片手取り呼吸法、坐技呼吸法、後ろ両手取から始めたらいいと考える。そして片手取り呼吸法、坐技呼吸法、後ろ両手取を阿吽の呼吸で、魄を土台に、魂を表に出すことができるようになったらば、他の技でやり、そしてすべての技でできるようにすればいい。これで魂の学びの合気道、真の合気道の修業に入っていけるものと考えている。