【第700回】 音楽のボウイングと合気道の息づかい

技を掛ける際、息づかいは大事であることは云うまでもないが、息づかいも難しい。イクムスビや阿吽の呼吸などの息づかいはある程度分かったつもりでいたが、まだまだ不十分である。相対での稽古相手が力を籠めて打ってきたり、掴んで来れば、イクムスビも阿吽の呼吸も乱れてしまい、息と体が一体とならず、技が乱れてしまうものである。

かって本部道場で有川先生が教えておられたが、先生の息づかいは自由自在であった事を思い出す。相手が思い切り打ち込んでくる手を制し、相手を自在に処理してしまわれたり、打ち込んでくる受けの相手を一気に、一呼吸で倒されていたのである。相手を止めたり、一気に投げたりと呼吸を自由自在につかっていたわけである。
大先生の息づかいは更に自由自在であった。どんなに激しく動かれても、またゆっくりと動かれても息づかいが感じられないのである。いつどのように息をされているのか分からないのである。ただ、時々、咳払いをされていたことで、やはり大先生も息をつかわれているのだなと思ったぐらいである。
息を自由自在につかうということは、息づかいの法則に則った息づかいが出來た上でできる事だと思う。法則を知らずに自由自在の息づかいは、出鱈目、めちゃくちゃの息づかいということである。

相対稽古では、イクムスビや阿吽の呼吸で技を掛けているが、最後まで息が続かず、途中で息が切れたり、息を何度も吸ったり吐いたりしてしまうことがある。相手が素直で無理に力を掛けて来なければ、一つの技(形)をイクムスビや阿吽の呼吸で収めることができるのだが、体力や腕力があって挑戦的な相手などには、息と体が一体化せず、技が乱れるのである。

最近、音楽の世界でボウイングという擦弦楽器の弓の動かし方がある事を知った。この操法が合気道での息づかいに活用させてもらえるのではないかと思うのである。
ボウイング(Bowing)とは、「運弓法(うんきゅうほう)ともいい、バイオリンなど擦弦楽器にあって弓をどのように動かすかという方法をいう。元弓から先弓に向かって毛を使う方向をダウン・ボウ(下げ弓)、逆をアップ・ボウ(上げ弓)と言う。一般的にダウン・ボウ(下げ弓)を強拍に、アップ・ボウ(上げ弓)を弱拍に用いる。」とある。

そして私が興味を持ったボウイングの箇所は、一音符毎にダウン・ボウとアップ・ボウを繰り返すのと、複数音符にまとめてダウン・ボウとアップ・ボウを繰り返す操法がるということである。
尚、ダウン・ボウ(下げ弓)は、区切りよく、軽快で、力強く、アップ・ボウ(上げ弓)は、音が切れず、流れるようで、軟らかく、広がるというのである。

合気道で技をつかう際、一音符毎にアップ・ボウとダウン・ボウする息づかいで出来る。合気道の技は十字十字に体を返すので、縦横十字に返すところで息を吐いたり吸うのである。例えば、正面打ち一教の場合は相手が打ってくる腕をイーや吽のアップ・ボウで抑え、クーや阿で横に導き、ムーや吽でその腕を下にダウン・ボウで落し、更に横、縦と進むのである。
多少動きと技はスムーズではないが、軽快で力強く、息は切れない。
先輩や力のある相手と力一杯稽古をするときは一音符毎のアップ・ボウとダウン・ボウ法でやるのがいいだろう。

次に、複数音符にまとめてのダウン・ボウとアップ・ボウである。合気道の場合は、この複数音符に該当するのが縦横十字十字で構成される技ということになる。この複数音符である技を阿吽の呼吸の一呼吸で収めてしまうのである。例えば、正面打ち一教の場合は、相手が打ってくるのを抑えるところから、床に抑えるまでアップ・ボウ、そしてダウン・ボウと極めてしまうのである。

このように音楽の世界からも学ぶことはあるし、まだまだ学ぶことがあるはずである。身の回りにあるもの、万有万物は師でもある。一つのコトを深く探究していくと、師に出会えるようである。師と出会えるように修業を深めていかなければならないだろう。