【第293回】陰陽のめぐりあい(道歌7)

合気道の技の練磨では、手で相手をくっつけたり、崩したり、技を掛けたりするので、手は重要な働きをする。しかし、これらの手の働きのほかに、知らなければならない大事な手の働きがある。

合気道では本来どんな体勢でどこを掴まれても、技で制することができなければならないが、それでは説明が煩雑になるので、右半身での体勢とする。刀を差した武士の基本的な体勢で、手と足は右が前にあり、左手と左足は後にあることになる。

ここで前にある右手を、相手が右手でも左手でも掴んでくるとすると、掴まれた右手で動かそうとしても、相手がしっかり掴んでいればなかなか動かせないものだ。なぜ動かないのか、冷静に考えてみればすぐ分かるはずだが、人は考える代わりに、力をこめてがむしゃらに動く方を選択してしまうからのようだ。

相手の掴んでいる手と掴まれているこちらの手の力は、手と手の同質で拮抗した力であるから、お互いに頑張れば争いになってしまう。

それでは、どうすればよいのかということであるが、右手を取られたら、その掴まれている接点を支点にし、反対の左手(足、腰、肩と共)を動かして、技を掛けていくのである。片手取りの転換法、天地投げなどがうまくいかない原因は、ここにあるといえるだろう。

また、正面打ちの場合などでも、手刀が相手と接したところから、右手を押したり動かさないで、左手を動かすのである。

例えば、正面打ち入り身投げの場合に、右手で相手の打ってくる手刀を螺旋で受けてくっつけたら、右手はその接点から離れないようにしながら、後に控えている左手で、相手の横腹を打つようにしながら、襟首を掴むまでを一つの軌跡を描くようにする。次は左手が前になり、右手は後になる。右手の陽が陰にかわり、左手の陰が陽にかわるのである。

つまり、相手を導くためには、右の手は陽として前に出すが、実際には後にある陰の手を陽として働かせなければならないのである。

この奥義を開祖は道歌で、

右手をば 陽にあらはし 左手は 陰にかへして 相手みちびけ
と詠まれている。

相手を倒そうと思ったり、ぶつかって争いになると、陽だけに頼った陽・陽の手づかいになってしまい、相手を導くことはできない。陽の次は陰、その陰が陽になり、その陽が陰に変わるを繰り返す陰陽のめぐりあわせで、手をつかわなければならない。

また、別な見方をすると、陽には陰が内在し、陰には陽が内在し、いつでも陰陽にかわれる陰陽表裏一体であるということもできるだろう。