【第927回】 争いのない世界をつくる合気道

地上の歴史は争いの歴史であるとも云えると思う。強い者が弱い者に勝ち、勝った者がその地や人を支配し、取り込みを繰り返してきた。これは過去の話ではなく、今現在も続いている。ウクライナとロシア、イスラエルとガザ、ミャンマー政府軍と反政府武装勢力等の国規模や地域の争いや国境や領海域の国の争い、民主主義国と権威主義国家との対立と抗争等々である。
また、社会生活においても少しでも金を稼ぎ、いい物を手に入れるために他人や他社に勝とうと争いながら生きている。国も人も争っているわけである。
誰でもこのような争いを無くし和合していきたいと願っているがどうすればいいのか分からない状況である。

これらの争いをなくすために合気道があると、合気道は教えているわけだが、若い頃はそれは全然分からなかったし、興味もなかった。当時の合気道での興味は強くなって相手を倒すことだった。大先生からは合気道は愛の武道であり、世界平和の武道であると何度も聞かされていたが、どうしても信じる事が出来なかったのである。そうだろう、合気道を稽古していれば争いのない平和な世界になるなど思いもよらないし、全然理解出来なかった。

しかし長年の合気道修業と年を取ってきたせいで、合気道を修業していけば世界に平和をもたらす可能性があることが分かってきたし、合気道にはその力と可能性があると信じられるようになってきたのである。
何故、そう思うようになったかと云うと、合気道の技の錬磨を通して、それを実感するようになったからである。二つある。
一つは、気によって相手をくっつけて、相手と結ぶと攻撃してくる相手と一体化し投げたり押さえ込もうなどという気持ちがなくなってしまい、相手と仲良くなろう、相手を気持ちよく、満足できるようにしてあげようと思うようになるのである。これを大先生は愛といい、合気道は愛の武道であるといわれたことが実感できるようになったのである。
もう一つは、一体化した相手は攻撃していることを忘れてしまい、一体化し、争いの心を消失してしまうことである。心と顔つきが変わるのを感じる。
つまり、こちらが結んで愛の気持ちになれば、他者は争う気持ちを無くしてしまうということである。己も相手も争う気持ちを喪失しまうのである。
慣れてくれば、稽古相手だけでなく、周りの動植物にも愛の心を発し、その心で見たり、話しかければ相手は気持ちよくなり満足するようになるようである。
この調子で万有万物に接し、そして天地宇宙とも接していけば宇宙、全人類と和し、一体化することになるだろう。これを大先生は次のように言われている。
「宇宙万世の現われの根元は魂の現われであり、愛の現れである。その根元の最も純粋な現れは合気道である。宇宙、全人類を大きく和し、一体となるべき本来の道である。」(合気神髄 P.36)つまり、合気道には全人類と和し争いのない世の中をつくることができるということである。
因みに、ここで愛の現われは魂の現われといわれているわけだから、愛の心が現れて来たということは、これまで探し続けている“魂”が出て来たという事になるだろう。“魂”にまた一歩近づいたことになり嬉しい。

大先生と二代目吉祥丸道主は、争いのない平和な世界、地上楽園の土台をつくって下さったわけである。大先生と二代目吉祥丸道主の代では完成できなかった事を我々後進達が受け継ぐわけである。それを期待して道主は、次のように言われているのである。
「合気道には、宇宙や万物の無限の発展完成が約束されているが、これを成し遂げる役割は武、すなわち、戈の争いを止めさせる真の武人(合気道家)にこそ負わされている使命である。」

あと何代かかるか分からないが我々合気道家はこの使命を果たすべく修業しなければならないと思っている。己もその架け橋としてもう少し頑張ろうと思っている。伊達に年だけ食っているわけにはいかない。