【第807回】 高齢者の合気道とは

毎週四種類、四編の論文を書いてきている。その内のここでの論文のテーマは『高齢者のための合気道』である。これまで800編以上書いてきた。高齢者はどのような稽古をしていけばいいのか、どのような身体のつかい方をすればいいのか、合気道を通して、この世の中がどのように見えるのか、後進や社会に何を伝えていけばいいのか等々を書いた。
800回を超えたこともあり、ここで、この論文テーマである『高齢者のための合気道』について、再度考えてみたいと思う。つまり、この論文の目指す目標を確認したいと思うのである。論文は1000回を目標にしているので、残す200回を描き続けることもあるが、書く論文のテーマ、そして最終的な論文はどうありたいのかということになろう。

勿論、この論文も合気道の稽古・修業との関係で書かれるわけだから、稽古・修業をしっかりしなければならないし、目標を持って精進しなければならないことになる。しかし、これは『合気道の思想』『合気道の上達の秘訣』などにも書いたように決まっている。それは、大先生が云われている「宇宙との一体化」である。宇宙の営みや宇宙の条理・法則に則った合気道の技を身につけることによって宇宙を身につけていくのである。
ということは、高齢者も宇宙との一体化を目指さなければならないということになる。しかし、合気道は高齢者だけでなく、若者も稽古しているわけだから、改めて高齢者の合気道は宇宙との一体化であるというのはおかしいだろう。何か、高齢者ならではの宇宙との一体化があるはずである。

自分の若い頃やまわりの若い稽古人を見ていると、高齢になった自分と比べて違いがあるのがわかる。高齢になると身体的に機能が低下したり、体力やスタミナが減少していることを実感するが、また、年を取らないと分からない事、出来ない事があるという事を確信するものである。
例えば、合気道は宇宙と一体となることであると、若い頃に知ったとしても、それを身につけることは難しいと思う。周りの若者を見ていてもそうだし、自分自身でも、若い頃は宇宙との一体化など何のことか分からなかったし、興味がなかった。これに興味を持つようになったのは、魄の力の衰えを感じ始めた高齢になってからである。
まずは、興味をもつことであるが、肉体的な魄の稽古に専念している若い内は、このような見えない世界・次元のことに興味が持てないものである。高齢になって、見えない世界・次元に、徐々に興味の目が開かれると思う。

次に、宇宙との一体化のためには、技を練る稽古をし、その中から、宇宙の法則や営みを見つけ、それを技で確認し、そして身につけていくということを繰り返していかなければならないから、時間が掛かることになる。時間が掛かれば、人は年を取る。高齢になるわけである。

更に、魄の稽古から魂の稽古に変わるのは容易ではないと思う。それまでの腕力や体力の力に頼らずに技をつかい、相手を制し、相手を納得させ、そして己が納得するのは容易ではない。何故ならば、これは教わることは不可能だし、自分で見つけていく外ないようだからである。過っては大先生や有川先生がおられて、導いて下さったが、今は難しいと見る。

私の場合は、魄の力を脱しようとしている段階で、そのために、腕力の代わりに息をつかい、そして気で技をつかうべく稽古をしている段階である。大先生は、気の中に魂が働くと言われているから、いずれ魂の学びの合気道に入る事になるだろうと期待しているところである。魂の学びの合気道に入れば、恐らく宇宙と一体になっているはずだと思う。

今のところ、これが高齢の私の合気道の目標ということになるし、また、高齢者の一般的な目標であって欲しいと思っている次第である。
そのためにも、『高齢者のための合気道』を書き続けるつもりである。