【第806回】 気候変動に考える
今年も気候変動が原因と思われる災害が沢山起きた。大雨による浸水、洪水、土砂崩れ、土石流や台風、度重なる線状降水帯発生や猛暑等々である。世界を見ても、猛暑による山火事がヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、カナダで多発し、ドイツやイギリスでは大洪水に見舞われ、また、グリーンランドの氷河はどんどん溶けている。
これらの災害は50年ぶりとか、はじめてである等と言っているが、これらの災害が、後50年来ないという事でも、二度と起こらないという事ではない。ほぼ間違いなく来年もやってくるだろうし、もっと酷いモノだと思う。何故なら、地球の状況、例えば、気候変動をもたらす要因が変わらないし、ますます悪くなっていると思うからである。
気候変動は、いつも気にかけている。暑いとか、雨が多いとかをぼやいていても仕方がない。気候変動をなくし、よくする事をみんなで考えないといけないと思っている。それではどうすればいいのかを考えなければならない。政治家は、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)・京都議定書締約国会合(CMP)・パリ協定締約国会合(CMA)などで頑張っているし、科学者も知恵を絞っている。また、企業も、「国内の排出削減・吸収量の確保により、2030年度に2013年度比-26.0%(2005年度比-25.4%)の水準(約10億4,200万t-CO2)にすること」にしようとしている。
新聞広告で、気候変動をなくし、持続可能な生活を送るためにはどうすればいいのかという趣旨の本を知り、購入して読んだ。題名は、『人新世の「資本論」』(斎藤幸平著 集英社新書)である。非常に勉強になった。
まず、斎藤氏の文章と考えを大ざっぱに紹介する。
- 「気候変動が将来の世代に与える影響の大きさを考えれば、私たち現役世代が無関心でいることは許されず、今こそ、「大きな変化」をはっきりと求め、起こしていく必要がある。」
- 「経済成長をしながら、二酸化炭素排出量を十分な早さで削減することは、ほぼ不可能であることを示した。デカップリング(切り離し・分離)は困難なのだ。となれば、経済成長を諦め、脱成長を気候変動の本命として真剣に検討するしかない。」
- 「世界全体が「持続可能で公正な社会」へ移行しなければ、最終的には、地球が住めないような環境になって、先進国の繁栄さえも、脅かされてしまうのである。」
- 「私たちが、環境危機の時代に目指すべきは、自分たちだけが生き延びようとすることではない。それでは、時間稼ぎはできても、地球はひとつしかないのだから、最終的には逃げ場がなくなってしまう」
ここからは、著者の考えについていくのがちょっと難しい所である。彼は後で紹介するように、マルクス主義哲学、マルクス経済学であるからであろう。それも紹介する。
- 持続可能な経済発展を目指す「エコ社会主義」へ向かわなければならない。
- 「拡張を続ける経済活動が地球環境を破壊しつくそうとしている今、私たち自身の手で資本主義をとめなければ、人類の歴史が終わりを迎える。資本主義ではない社会システムを求めることが、気候危機の時代には重要だ。コミュニズムこそが「人新世」(人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆いつくした年代)の時代に選択すべき未来なのである」
更に次のようにも言っている。これは大いに賛同するところである。
- 「無限の経済成長を断念し、万人の繁栄と持続可能性に重きを置くという自己抑制こそが、「自由の国」を拡張し、脱成長コミュニズムという本来を作り出すのである」
- ここに「3.5%」という数字がある。ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェスらの研究によると、「3.5%」の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わるというのである」
例えば、フィリピンのマルコス独裁を打倒した「ピープルパワー革命」(1986年)、グルジア大統領を辞任に追い込んだ「バラ革命」(2003年)等である。
このまま資本主義、自由主義経済、物質文明を続けていれば、気候変動はますます激しくなる事は間違いない。産業革命以来、気温はすでに1℃上昇、このままCO2の排出を続ければ、気温上昇は益々加速し、100年に一度と言われる大規模な洪水被害は頻発、大型の台風が発生する確率も上がるという。
上記のハーバード大学の政治学者チェノウェス教授が云うように、まずは世界の人口の3.5%が気候変動問題解決に取り組む事かもしれない。これからは共産主義や社会主義にならないまでも、自由主義経済で行きたいなら、これまでの経済成長や快適さはある程度、みんなで我慢しなければならないだろう。これまでのやりたい放題の生き方を少しセーブすることであろう。
最後に、この気候変動の問題も合気道に関わるということである。合気道は、これらの問題が起こる事を予測し、そしてその解決法を内に秘めているはずだからである。
物質文明はいつかカスが溜まるからそのカスを取らなければならない。つまり、合気道で云う、禊ぎである。自由主義経済のカス(気候変動)が溜まってきたわけであるから、このカスを取り除く禊ぎが必要と云う事である。
合気道の教えは、「真の武道とは宇宙の気をととのえ、世界の平和をまもり、
森羅万象を正しく生産し、まもり育てることである。と私は悟った。「すなわち、「武道の鍛練とは、森羅万象を正しく産み、まもり、育てる神の愛の力を、我身心の内に鍛錬することである」と私は悟った。(合気神髄 P54)とある。つまり、合気道の修業の目的は、「森羅万象を正しく生産し、まもり育てること」であるから、地球も大事に守っていかなければならないのである。地球と結び、地球の気持ちを我がものとし、地球が喜ぶように接していくのである。これを地球との合気というのだと考える。この合気こそが禊ぎであろう。
合気道は、このような使命があり、地球にも人類にも必要である故に、大先生は、万人が合気道をやるように言われておられたことが分かる。3.5%の世界の人が合気道を本気でやり、この気候変動に立ち上がれば、この問題が解決に向かうかも知れない等と思っている。
参考文献 : 『人新世の「資本論」』 斎藤幸平著 集英社新書
斎藤幸平(さいとう こうへい:1987年- )は、日本の哲学者、経済思想史研究者。専攻はヘーゲル哲学、ドイツ観念論、マルクス主義哲学、マルクス経済学。大阪市立大学大学院経済学研究科・経済学部准教授。博士(哲学)。
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