【第802回】 修業から道楽へ
半世紀以上、合気道を続けている。この春に傘寿になったこともあり、己の合気道がこれまでと少しずつ変わってきていることを感じる。これまでの数年間は、謂うならば、合気道を「修業」していたと思っている。宇宙・天地の教えに従って、己をその運化・営みにはめ込み、宇宙との一体化を図ろうとしていた。それまでの、稽古相手を、如何に投げたり、抑えるかを主体としていた、所謂、「稽古」とは違い、その後の段階であった。つまり、「稽古」の時期を終えて、修業の道に入り、そしてその修業も出ようとしているのである。しかし、勿論、それは合気道をやめてしまうということではなく、逆に更に合気道に深く入っていこうとしているという事であると思う。
合気道の「修業」の時期の前に「稽古」の時期があるとしたが、ついでに「稽」古の前には「練習」というものがあることを確認することにする。つまり、合気道は、「練習」から始め、「稽古」、そして「修業」へと移ると考える。
この「練習」と「稽古」について、有川定輝先生は次の様に教えておられる。
- 「「練習」では指導できるが、元来「稽古」は指導するものではない。合気道は自発性がなければ前進がない。一方、自発性がないから指導するのであって、それだけでは限界がある。」(有川定輝先生追悼記念誌)
- 「ある時、稽古の合間に、「練習」と「稽古」とは何が違うのかと問われたことがありました。一般的には、欧米からきたスポーツは「練習」、日本古来の武道や茶華道は「稽古」という言葉を使います。「稽古」というのは、教えてもらうというより、自ら手本を学ぶ、自分の目で見、頭で考え、繰り返し行い習得するという積極的意志が働くものだという意味のことを言われました。」(同上)
有川先生は「修業」という言葉は使われなかったと思うが、先生にとっては、先生が云われている「稽古」はわれわれが云う「修業」であったと考える。因みに、先生の前では「稽古」という言葉は使ったが、「修業」という言葉を発することはなかったし、言えるような雰囲気ではなかったことを覚えている。
しかし、私の場合は、己を鼓舞するために、「稽古」と「修業」を分けて使うことにしている。「稽古」と「修業」の大きな違いは、一日24時間生きている中での時間的・精神的な比重の違いと質の違いであると考えている。「稽古」は、どんなに一生懸命にやっても、生活の一部でしかないが、「修業」は生活のすべてであり、「修業」が中心になって生きているということである。修業を徹底的にやれば大先生のようになれるだろうし、そうでなければ、そこそこの結果しか残らないことも承知しなければならない。
さて、冒頭に戻る。「修業」をしてきたが、最近、己の合気道が変わろうとしているということである。何がどう変わろうとしているというのかというと、これまでの合気道の「修業」が「道楽」に変わろうとしているということである。
思い返してみると、これまでの修行は数年間ではあったが、結構、大変だったと思う。毎朝、禊ぎをするわけだが、はじめの内は、雨や雪、昨晩の飲み過ぎ、体調不良等‥を理由にサボろうとしたりしたし、筋肉や関節を痛めたり、やる意欲が湧かなかったりして、起きるのも嫌なこともあったものだ。
しかし、最近は、禊をするのが楽しみで、目覚めるのも楽しい。今日はあれをやろうとか、これを試してみようとか、また、今日は、神様か天か宇宙かから何を教えて貰えるのか等とわくわくするのである。道場に行くのも、やりたいことや研究課題があるので嬉々としていくようになった。暑さ寒さや雨や雪などあまり関係なくなってくる。
いやいややっていたときは、やるべきプログラムを、回数を決め、それをやるように自ら仕向けていたが、今やその必要はなく、プログラムも回数も自由で、好きなだけやっている。やりたい事は時間や回数に関係なく、気が済むまでやっている。
そこで私の合気道は、最早、修業ではなく、道楽になったと思っている。
これは有川定輝先生の境地にちょっと近づいたと喜んでいる。先生は、合気道マガジンのインタービュ(1989.4)で、「先生にとって合気道とは何でしょうか?」に対して、「道楽だね。道を究めること。究めの中に、人生の創造が出てくる」と言われている。
道楽とは、道楽息子の道楽ではない。「道楽」というのは仏教用語で、「悟り」を意味する。ただし単なる悟りではなく、「悟りの境地を楽しむ」ことであるという。
もう少し詳しくいうと、“「道楽」という語は、もとは仏道を求めるという意味である。仏教では「ドウギョウ」と読む。楽は願と同義で、仏道を楽(ねが)うのが道楽の原意である。この「道楽(どうぎょう)」の意味が転じて、道を修めて得られる「楽しみ」「悦び」を表すようになる。”
これからは、合気道を道楽し、悟り、その悟りの境地を楽しみたいと思っている。
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