【第773回】 小さな世界から大きな世界へ

80年近く生きてきてこれまでの事を思い返してみると、一つの道を辿ってきていることが見えて面白い。
それは私自身の道でもあるが、人が辿る道、辿ろうと願う道ではないかと思う。
先ず、母の胎内の胞衣えなの世界で10か月ほど過ごした。そして家という世界に入り、赤ん坊から高校生まで過ごすことになる。しかしこの時期、家ばかりに居る事が苦痛で、よく友達や親せきの家に泊まりに行ったりした。当時は家に居る事にどうして我慢できなかったのか分からなかった。今はそれが分かるが、当時は分からなかった。そして俺はひょっとすると不良少年ではないかとも心配したものだ。

この頃は田舎に住んでいたので、早く田舎を出たいと思っていた。そのため東京の高校に入ろうとしたが、試験で落ちて高校まで田舎に残った。
大学は勿論東京であった。やっと田舎から東京に出る事ができて嬉しかった。
しかし、大学と大学院の6年も東京にいるともう十分だと思うようになった。更に大きな世界に出たくなったわけである。そこで今度は外国に出たくなったのである。そう思っていると外国人の友達もでき、その友達の一人のドイツ人の國に行った。ドイツで7年暮らしたが、この間、多くのヨーロッパの國を回った。そして日本に帰国したという次第である。自分の希望する事は大体実現できることを悟った。

つまり、私が辿った道は、胞衣、家、田舎町、都会(東京)、外国という世界を結んだ道であったということである。
これを見ていると、恐らく、人は誰でも自分の世界を、小さい世界から大きな世界で過ごしてみたい、見てみたい、体験してみたい等と思っているのではないかと思う。
只、誰でも、田舎から都会、日本から外国に行けるわけではないわけだが、実際に体を移動しなくとも、心はそのように願っているはずである。海外旅行に行くというのは、その大きな世界への本能の現れだろうと思う。
つまり、小さな世界から大きな世界への道を辿るのは肉体・体と精神・心の両方もあるし、精神・心だけの場合もあるという事である。

合気道の修業や技づかいでも、小さな世界から大きな世界への道を辿っているようである。
初めは、自分のことで精一杯であり、天上天下唯我独尊である。自己という小さな世界で稽古をしているわけである。次に、相対稽古で二人の世界の稽古となる。その次は、合気道と云う世界、更に、武道という世界で稽古をしていくことになる。そして最後に、合気道の教えに従った、宇宙の営み・法則に則った、宇宙という大きな世界での稽古になるわけである。合気道の最終目標である、宇宙との一体化である。

宇宙自体もポチ(?)からどんどん大きくなり、今も拡大している。
“小さな世界から大きな世界へ“は、宇宙営みであり、法則の一つだろうと思っている。