【第723回】 「で、社会のために何をしたの?」

合気道を長年稽古している。半世紀以上になる。稽古は一生懸命に続けてきて成果は上がっていると思うが、最近、まだまだだと痛感する。それは技がまだまだだという事もあるが、それ以上に大事な事が出来ていないし、その大事な事をどうすれば出来るようになるかが分からないからである。

これまで書いてきたように、合気道にも小乗の稽古と大乗の稽古がある。小乗は己の稽古であり、己の完成を目的とする稽古である。それを宇宙との一体化という。そして大乗の稽古(修業と言った方がいいだろう)は、社会、人類、地球、宇宙楽園完成の生成化育を自らし、また、生成化育にあるモノたちを支援したり、それを阻害するものを阻止することである。これを地上楽園建設の生成化育という。
小乗の稽古はこれまでの稽古を続けて行けばいいと思うが、大乗の稽古をどうすればいいのかということなのである。

こんな事を考えていたら、朝日新聞“フロントランナー”にショコラティエのピエール・マルコリーニさんの記事が目につき、はっぱを掛けられた。彼は小乗のビジネスを土台に、大乗のビジネスにも力を入れ、世界的に有名なショコラティエになっているのである。
多少長くなるが、その新聞記事を引用して、彼の事と彼の考え方、小乗から大乗のビジネスへの変わり方を紹介する。

「ピエール・マルコリーニ(PIERRE MARCOLINI)(写真)は、ベルギー生まれの高級チョコレート販売のパティスリー。ベルギーをはじめ、ロンドン、パリ、ニューヨークと世界各地に進出している。
パティシエをはじめとする4つのディプロマ(職人資格)を持つ世界でも数少ない人物。1995年の菓子職人世界大会でチーム優勝もしている。

最初はほかのショコラティエがするように、大手メーカーから原料を調達した。溶かして、固めれば商品が完成する。次第に「自分の個性や価値」を自問するように。
「今のままでは販売業者だ」。そして「マルコニーニの味」をつくる挑戦が始まった。各国のカカオ畑に足を運び、必要な機械は業者を訪ね歩いて特注した。
最適な温度、時間で焙煎し、細かな粒子のクーベルチュールに仕上がる。それが、特有の華やかな香りと滑らかな口溶けを実現した。」
そして美味しいチョコができ、売れたという。つまり、ここまでが小乗である。

しかし、彼は「おいしいチョコを作るだけではだめ、『で、社会のために何をしたの?』が問われるという。

「君のチョコはどうしてそんなに高いの?」とよく聞かれる。僕は「カカオ豆の生産者に妥当な金額が支払われ、労働者に適正な報酬が払われているか、児童労働はないか、有機栽培か、人体に有害な農薬を使っていないかに注意を払い、欧州でベルギーの職人がチョコをつくっている」と答える。
マルコリーニのチョコを買うことで、アフリカや南米など「南」と僕たちの「北」との間に対話が生まれる。包装紙も欧州でつくられたものを使い、工房に太陽光パネルを設置して再生エネルギーを活用する。その価値にこそ、人々がお金を払うと信じている。」大乗のビジネスである。

そして、目下の関心は、人や社会、環境に配慮したエシカル(倫理的)な事業運営であるという。

素晴らしい考え方、生き方である。このような考えでビジネスをする人たちが増えれば、世界は確実に楽園に向かって進み、地上楽園の生成化育となるはずである。
合気道も己が強くなり、上手くなる事だけを考えるだけではなく、社会のために何ができるのか、どうすればそれが出来るのかも考えなければならないのではと痛感した。