【第835回】 円で技を生みだす

稽古をしていると不思議な感覚になることがある。力を出したわけではないのに、相手が浮いてしまったり、ちょっと相手の手に触れただけなのに、相手とくっつき、相手を自由に動かすことができたり、これでは力が出ないはずなのに予想外の力が出たり等不思議に思うのである。
最近の不思議な感覚は、腹を締めた後、腹中を緩め乍ら息を引いていくと腹中、体中に気がどんどん満ちてくる感覚である。これまでは息を吸うことによって気を出すようにしていたわけだが、腹を締めて緩めるだけで気が出てくるのである。更に、この出てくる気は考えられないほど強靭なのである。それが一番わかりやすいのは二教裏の受けである。この気で受けを取れば、相当な腕力にも耐えることが出来るのである。息を吐いて力んで頑張るのとは雲泥の差が現われるのである。
これがどういうことなのか、これにはどのような意味や理合いがあるのか等これまで分からなかったが、これも大先生が教えて下さっていることで分かった。

それではこれを大先生はどのように教えておられるのかを、『合気神髄』で見てみることにする。
「円を五体の魂におさめると、技を生み出す仕組みの要素を生じます。生むは無限であります。すべてを豊かに満ちたる仕組みになすのが円の現われであります。円は宇宙にある一切の万物生物を、気結び、生産びの形にて、生成化育し、守護の仕組みを生じさせます。合気の武も円いのであります。宇宙の気はすべて魂の円におさまります。おさまるがゆえに技も無限に包蔵され、生み出すこともできます。これが合気の魂の円であります。
己の魂があれば、人にも魂があり、これを気結び、生結びして円の本義の合気を生みださせれば、円はすべてを統合します。円の極意は皆空の中心をつき、技を生み出すことにあります。」(P.120, 121)

腹中を締め(“皆空の中心をつく”)、そして緩めて引く息で出てくる力(気)は円の力、働きであったのである。ここでの円こそ腹を緩めると気で満ちる体であると感得する。魂はまだよく分からないが、感じとしては宇宙心・宇宙精神と考えている。この円が技を生み出す仕組みの要素を生じ、一切の万物生物を、気結び、生産びするので、技を生み出すことになるということなのである。つまり、円で技を生み出していくということである。
上記の大先生の教えはまだ完全には理解出来ないが、己の引く息から得られる力(気)の感覚はこの大先生の教えと重なってくる。

合気の稽古では、まず、自分が何かを見つけたり、驚いたり、感動したり、疑問を持つことが重要である。しかし、これだけでは自己自賛や井の中の蛙になってしまう。そうならないためにも、また、その正当性や重要性を確認するためにも大先生の教えに照らし合わせてみることである。大先生は、我々稽古人達が持つであろう、ほぼすべての疑問や摩訶不思議に答えて下さっていると思うからである。
この己の感覚と大先生の教えの両面で稽古、修業を続けて行くことが上達の秘訣であり、必須であると思う。