【第654回】 歩くテンポ

東京の街を歩く人達を見ると多くの人が、小走りに歩いたり、前の人を追い越そうと、忙しそうに歩いている。地に足が着いていない歩きをしているし、本来の自分たちのテンポに合っていない歩き方ではないかと思う。体にも悪い歩き方だと思う。

武道的でなくとも、満足に歩いている人は少ない。歩き方は美しくなく、目を背けたくなってしまう。重心は上手く移動しておらず、体を偏らせて歩いている。オフィスで長時間座って仕事をするにあたって、悪い姿勢でいるためだと見る。10年したら歩けなくなるのではないかと心配になる若者も多く見かける。特に、若い女性に多いのが気がかりだ。更に気がかりなのは、そのような若い女性の多くが、駅で階段を使わず、エレベーターに割り込んでいくのである。
また、高齢者もまともに歩くことができなかったり、杖をついてようやく歩けるような人が増えているように思う。後、2,3年で歩けなくなるのではないかと思ってしまう人もいる。

まともに歩けなくなってきているのには、いろいろ原因があるだろう。第一は、西洋文化が入ってきたことである。日本人本来の歩き方が変わってしまったことである。次に、歩かなくなったことである。世の中便利になって、歩く必要が減少していることに加え、世の中の時間が、歩くのではなく、乗り物に乗ったり、駆け足に近いようなテンポでの時間で作成され、実行されているからだと考える。物質文明の行き過ぎといってもいいだろう。

それでは、うまく歩くためにどうすればいいのか。私の考えを提案してみる。
それは「われわれ日本人に合ったテンポ」で歩くようにすることである。それはどのようなテンポかというと、「童謡」を歌うテンポである。これが日本人に合った歩くテンポだと思う。「夕焼け小焼け」「春の小川」「浜辺の歌」等々何でもいい。初めは童謡を口ずさみながら歩けばいい。そのうち、そのテンポが体に染みつき、童謡のテンポで歩くのが標準となり、気持ちよく歩けるようになるだろう。地に足が着き、周りも見えるようになり、頭も働くようになり、体も頭もリラックスするはずである。そして気持ちも落ち着く。

因みに、街の中で多く見かける鳩の歩みを見ていると、やはり「鳩ポッポ」の歌のテンポで歩いているように見える。「鳩ポッポ」の童謡をつくった人は、鳩の歩くテンポは「鳩ポッポ」の童謡のテンポであると確信していたはずである。

人にも鳩にも歩くテンポはある。外国人、欧米人にも、歩くテンポはあるはずである。
先ず日本人は、童謡のテンポで歩くテンポを一度身につけ、本来の歩くテンポにしたらいいのではないだろうか。