【第562回】 仕事をやめてからの三つの道

仕事を止め、社会からのしがらみが無くなると、自分というものが見えるようになる。会社や社会(会社社会、競争社会)にいると、自分の本当の姿は分からないものである。会社が大きかったり、役職が高ければ、自分は才能、能力がある有能な人間だと思ってしまったり、そうでなければ、自分は駄目な人間だと思ってしまったりする。

しかし、会社とそれをとりまく社会との関係がなくなると、会社がどうの、役職がどうのという事と関係なく生きなければならなくなる。会社をやめれば、もう誰もその人の以前の会社や役職などには興味がなく、無視してくる。偉いと思っているのは本人だけで、他人はそう思っていないわけだから、滑稽でもある。
だから、仕事を離れたら、これまでの人生と違った生き方をしなければならないわけである。

会社を定年で辞めてから、新しい人生を進む道には3種類あるようである。
一つは、会社人間から脱却できず、これまでの会社風を吹かせて生きる道であったり、少しでもその会社の内にいたいとする道である。
家族にも、周りにも、依然として俺は偉かったとばかりの高圧的な言動をはいたりする。また、会社を辞めた仲間やOBと頻繁に集まったり、飲んだりして、自分が会社の仲間であり、まだ会社に所属しているということを確認し合っているように見える。

二つ目は、定年になって、やりたいこと、これまでやろうとしてできなかったことをやる道である。これが一般的な道であるようだが、この道はなかなか険しいものである。よほどでなければこの道は進み切れないようである。旅行でも、山登りでも、カメラ撮影でも、また英会話や楽器などの習い事でもいいが、多くは半年ぐらいで脱落するように見える。実際、海外旅行や国内旅行も半年もすれば飽きてしまうものである。
この道を進むには、この道を進むぞという強い決心と、いい指導者や仲間が必要になるから、いい指導者を見つけること、そして仲間をつくることが大事になる。

三つ目は、定年の前から、会社を辞めてからの道をつくりはじめることである。例えば、合気道をやりたいであれば、会社に勤めている間に、週に一回でも稽古をやりはじめておくのである。これを会社をやめてからもやり続けていくのである。これなら続けていける。
この道もそう容易ではないが、最も理想的な道であると考える。大事な事は、忙しいだろうが、勤めている間に自分の人生を真剣に考えてみることである。人生とは何か。自分は何をすべきなのか、したいのか。仕事の意味。仕事がなくなった時の生き方等々を考えるのである。そうすれば、己の今の生き方、過去の生き方を見つめ、そして将来の生き方を考えることになるはずである。そこから仕事が終わったあとの生きる道が見えてくるはずなので、それを始めるのである。
その考えがしっかりしていて、強い意志があれば、この道を進むことができるはずである。