【第543回】 毎日、少しずつ

年を取ってくると、体の衰えは加速するようだ。それは人間だけでなく、生物の宿命であろう。だから、高齢者がどんなに頑張って鍛えたとしても、若者のような筋力や体力がつくことはない。オリンピックで80歳、90歳が活躍していないのを見てもわかる。

それが分かっていても、高齢者も己の体力を増進、または、維持する努力をしなければならないだろう。何もしなければ衰退するのは目に見えるだろう。一次方程式の線ではなく、階段状に加速度的に衰えるはずである。

合気道の稽古をしていれば、高齢者も、体の衰えを大分抑えることができる。骨はしっかりするし、筋肉が柔軟になる。稽古で汗をかけば、肌は柔らかくなる。
しかし、年を取ってくると、若い頃と違って、体力と気力が衰えるので、時間はあっても、毎日は、道場に通うことができなくなってくるはずである。稽古に通うのは、精々、週に2,3回ということになる。つまり、週の半分以上は、稽古をしないので、体を鍛えず、遊ばせていることになる。

何も体を鍛えることをやっていない高齢者に比べれば、合気道の稽古をやっている高齢者は、体が鍛えられるし、体の衰えが減速することは確かである。
しかし、道場に通って稽古をしているからといって安心してはいけない。週半分、大体、大ざっぱに言えば、よくても一日置きに稽古に通っていることになるが、稽古のない一日は、体は退化しているのである。
この衰えを次の稽古で取りもどすわけだが、大体は、前の日の体の衰えを取り戻したあたりで、その日の稽古は終わってしまうので、常に、基にやっともどったところで終わり、の繰り返しっということになる。
だから、道場に通って稽古をしているからと、安心してはいられないのである。

また、道場での相対稽古では、どうしても相手を意識した稽古になるので、自分の体のための稽古が、中々難しいものだ。
年を取ってきたら、技も大事だが、体がより大事になる。体が満足に機能しなければ、技はつかえないし、稽古自体もできなくなるからである。

高齢者の体づくりで大事な事は、部分的に筋力をつけるのではなく、体全体まんべんなく鍛えることである。体全体の関節、筋肉、筋(すじ)を結びつけ、柔軟にすることである。
また、もう一つ大事な事は、少しずつでも、毎日やることである。要は、日常生活の一部にしてしまうのである。
例えば、朝目覚めたら、寝床の中で体を動かすのである。足上げ、腹筋、背伸ばしなどをするのである。
また、夜、寝る前に寝床で、腕立てや開脚柔軟運動をするのである。
そして、できれば、部屋の中でも、家の周りでも、場所を見つけて、木刀や杖、鍛錬棒などの素振り、四股踏み、舟こぎ運動などやればいい。
その各々一回ずつでもいい。自分が毎日、無理なく続けられる範囲できめてやればいい。

体を柔軟にしたり、鍛える運動で大事な事がある。それは、
○体(部位)と息を縦と横の十字につかうこと
○息に合わせてやること(イクムスビ、阿吽)
○気を入れてやること等である

このような運動を毎日続ければ、体が柔軟になり、体が鍛えられるだけでなく、技に繋がってくるものである。自分のプログラムをつくって、少しずつでも、毎日続けるようにすればいい。