【第522回】 発見でこそ生まれ変われる

合気道は勝負がなく、稽古も勝ち負けを争うものではない。これを簡便に言えば、他人ではなく己との戦いであるといえるだろう。
他人と闘う武道やスポーツは、相手に勝ったり、優勝すれば嬉しいわけだから、人に負けないよう、相手に勝つように稽古をすることになる。

合気道は、他人ではなく、己に勝つための戦いとするということは、当然、己の戦いに勝ったときに喜びがあるということであり、そのために稽古をするということになろう。
それでは、何故、己に勝つと嬉しいのだろう。

己に勝つということは、己が変わったということである。これまで自分が知らなかった事を知り、出来なかったことが出来るようになったのである。
これは新しい発見である。新しい何ものかの発見と新しい己の発見なのである。
新しい発見には、例えば、新しい法則・技(陰陽や十字)、それに則った体づかいや体の機能などである。

新しい発見を、脳学者の養老孟司さんは、「自分が知らなかったところに行き着けば、自分が変わり、世界が突然変わってしまう。『それまでのわたしは、そのことを知らなかった』という発見です。世界は広くて、そんなことはたくさある。」(養老孟司 『老人の壁』 毎日新聞出版)といわれている。

このような己の学びや発見は己の内面の喜びであって、他者が介入したり、評価するものではない。だから、合気道では、己が宇宙の中心の御中主之神になって技を掛けると共に、相手などと争ってはいけないと教えているのである。

合気道でも、新しい発見をしていけば、周りの新しい世界を知ることになるし、己の心体の新しい世界の発見があり、ますます深い稽古をするようになるだろう。
深い底の底にどんな新しい発見があり、どんな新しい世界があるのか楽しみとなろう。

合気道で、新しい発見をしていく方法を身につけ、日常生活においても新しい発見をしていくことを習慣化していけばいいだろう。

参考文献: 『老人の壁』 養老孟司 南伸坊著  毎日新聞出版