【第509回】 長寿性

日本は創業100年以上の長寿企業が、ドイツやスイスなどのドイツ語圏などを抜いて世界の半数を超える25,000社と一番多い、と長寿企業のデータを収集している日本経済大学の後藤教授が書いている。その根源的な要因は、日本では「企業は社会の公器」だと考えられていることであるという。例えば、松下幸之助翁は、「経営資源は社会に帰属し、社会福祉に資するため経営者に一時的に預託されたものである」といっている。企業を社会のために役立て、それを次世代に移していくのが経営者の役目だというのである。

教授は、長寿企業の経営の特徴を、○長期的な視点を持っていること ○持続的な成長を重視していること ○自社の強みを構築・強化すること ○事業継続について強い意志があること、等であるという。

これは、合気道の修行にも当てはまるものだろう。合気道の修業も、長年にわたって終わりなく続けていかなければならないが、いろいろな理由でとん挫してしまうこともあるようだ。教授の話は、とん挫せずに稽古を最後まで続けるための「長寿稽古」の要因にもなるだろう。要は、何事も長く続くためには、絶対的・普遍的な必要条件・要因があり、それを怠れば長寿企業にもなれないし、長寿稽古もできない、ということである。

さらに教授は、日本には伝統的な価値観があり、それが長寿経営の基礎となっているという。例えば、○周囲への配慮や尊敬 ○奉仕によって信頼関係を醸成する和の精神 ○海外の文化を取り入れて吸収し、独自のものをつくっていく柔軟性 ○技の向上や求道といった向上志向、であり、これらが企業の長寿性を促す要因であるという。

これを合気道に当てはめれば、まず「周囲への配慮や尊敬」はそのまま当てはまるし、「奉仕によって信頼関係を醸成する和の精神」は稽古によって和の精神を培うことである。「海外の文化を取り入れて吸収し、独自のものをつくっていく柔軟性」は、合気道では宇宙・万有万物を取り入れていくこととなり、「技の向上や求道といった向上志向」は、技を錬磨して精進する合気道そのものである。

長寿企業は、松下幸之助翁がいっているように、私利私欲ではなく社会のために活動している、と教授はいう。「私欲から公益性へ」という考え方を地域住民や社会もサポートするために、危機に瀕した際なども支えてくれるという。

合気道も自分のためだけという私利私欲でやれば、長く続けることは難しいことになるわけである。開祖がいわれているように、世の中の澱んだカスをとるため、宇宙楽園建設のための生成化育のお役に立つような「公益性」のためにやらなければならない、ということになるだろう。

資料: 日本経済大学経営学部長 後藤俊夫教授
講演「長寿企業大国にっぽんの秘密」より(日刊工業新聞)