【第504回】  高齢者のやること、やるべきこと 続

前回に引き続き、迷っている若者へ高齢者がやること、できることを書いてみたいと思う。

先ず、合気道的に若者と高齢者を分類してみると、若者とは物質文明、モノの世界、力の世界、知識の世界に軸足を置いて生き、高齢者は精神文明、心の世界、知恵の世界に軸足を置いてる人、と定義してみる。

高齢者は若者より長く生きているわけだから、豊富な経験を有しており、若者よりはたくさんのことを知っているし、知恵もあるはずだろう。

自分の経験も含めて、時間が来なければ分からない、即ち、時間が来れば分かるということもある。だが、時間が来ても分からないものもあるはずであり、自分が得た知識や知恵を若者に伝えていくべきではないかと考える。

若者たちが高齢者になったとき、その知識や知恵を次の世代の若者に伝えていけばよいだろう。どんなによいものでも、継承されなければ消えていくのである。そして、一度消えてしまえば、再現するのは難しいものである。これは、今までの人類の歴史を見ればわかることだろう。

合気道を稽古している若者たちにまず伝えておきたい事としては、合気道をつくられた開祖のことがある。私は開祖と晩年の5年間ほど本部道場と岩間道場で教えを受けた。これまで論文に書いてきたように、開祖のお人柄、神がかった御姿、神業、やさしさと怖さなどなど、自分の目で見、体で体験したことを書いてきたし、また、稽古仲間にもよく話している。これからも機会があれば、開祖を知らない若者たちに話していくつもりである。

昔の稽古風景や稽古法など、今の稽古とは違っていたことも話している。当時の合気道はまだ柔術の影響が残っていて、力を重視する稽古だった。開祖は、合気道を魄から魂にしなければならない、と再三いわれていた。また、稽古している我々に、力まないようにと注意されるが、力を抜いた稽古をすると激怒されたことも紹介してきた。

入門した頃の自分の稽古も、若者には伝えている。日曜日も含め、毎日、それも2時間以上の稽古をし、その間の時間には自主稽古をしたのであるが、それだけ合気道には入れ込んでいた。開祖のお話も時々お聞きすることができたし、開祖の演武や神楽舞も度々拝見することができたのである。

大学の授業もあまり出ずに合気道に入れ込んだのは、合気道で自分が探し求めていた問題・課題が解決できると確信したからであったが。そのことなども若者たちには話してきた。先輩の厳しい稽古や鍛錬法、先輩が聞いた先輩の話なども、伝えていきたいと思っている。

合気道の若者にも、それ以外の若者たちにも、世間一般の事で知っていなければならないことなど伝えて置かなければならないと思う。今の若者たちは、我々の目から見れば世間をあまり知らないし、世界も知らないようだ。海外留学も少なくなっているし、海外赴任も敬遠するようで、外国には興味がないようである。英語や他の外国語が話せないというのは、外国にあまり興味がないということだろう。

世界を知らないということは、日本を知らないということでもある。日本を知らない最大の不幸は、日本のすばらしさを知らない、気づかない、ということである。

日本ほど風光明美で、しかもそれが国中にあるような国は他にないだろう。東京都には川、湖、海はもちろん、山もあるし島もあるのである。こんな大都会は、東京以外にはないだろう。

また、日本ほど四季がはっきりしていて、四季に従って生活している国民はないだろう。洋服和服など着る物も四季に合わせて着ているし、食べ物も四季のものを楽しむ。その食べ物のために、器も四季に合わせたものをつかうのである。

さらに、日本ほど安全な国はない、といわれるがそう思う。安全とは、鉄砲の弾が飛ばないとか、財布を落としても戻ってくる、というような意味だけでなく、安心、やさしい、という意味でもあると考える。

海外旅行に行ったことがある人ならわかるだろうが、成田空港や羽田空港に帰ってきて、通関を終え、到着ロビーに入った時に持つ安堵感は、日本の安心、やさしさのためであろう。外国では緊張の連続であったはずである。

外国は自分を主張し、自分の領域を少しでも広げようとする力の社会である。日本は基本的に「おもてなし」が重視されるような、相手の立場に立って考え、行動する文化であると思う。だから、帰国すれば気を張って緊張する必要がなくなり、ホッとするのである。

合気道の稽古でもそうだが、若者には、やるべきことをひとつひとつ積み重ねてやっていかなければならないことを教えていきたいものである。長年合気道をやってきて、やっと分かってきたことであるが、やるべきことにはいろいろある。それを見つけて会得しなければ、決して先へは進めないし、上達はないのである。やるべきことをやらないと、ごまかしたり、別な事でやることになって、次に続かないだけでなく、体や心を害することにもなる。このことは、若者たちに伝えていかなければならないだろう。

最後にまとめると、高齢者のやること、やるべきことの最大の目的は、若者に生きていることのすばらしさや、がんばって生きていこうという気持ちを伝えることであると思う。また、合気道の若者に対しては、合気道のすばらしさや、合気道に出会った幸せを味わってもらい、稽古にがんばれるようにすることだろう。