【第454回】 苦節十年

10年頃前から毎年、今年こそはこの目的を達成したいと願って、できるだけの努力をし、神参りまでしてきたのだが、これまでは毎年、空振りに終わってきた。
しかし、今年はその念願がどうやらようやく叶ったようだ。今年の最高の快挙であり、喜びである。

その念願とは、「正面打ち一教」である。合気道のほかの技(技の形)を身につけていくのも容易ではないが、この「正面打ち一教」は桁違いに難しいし、他の技とは次元の違う難しさがある。

合気道には、短期と中期と長期の稽古・修業目標があると考える。それは人それぞれ違うだろうが、大筋はあまり変わらないだろう。

若い頃は、目先の事、細かいことに目標を置き、それに挑戦するものだ。例えば、技を覚える、合気の体をつくる、また、相手に負けないよう、力負けしないよう、何とか倒そう、等の稽古である。そのために力一杯稽古したり、得物で力をつけたりする。これらは、数日から数年で達成できる目標であり、短期の目標といってよいだろう。

短期の目標と対照的な長期の目標には、例えば、「宇宙との一体化」等がある。この目標を達しするには、時間がどれくらいかかるか分からないし、達成できるかどうかも定かではない。しかし、合気道を修業するものは、この目標に挑戦しなければならないはずである。

短期と長期の間にある中期の目標とは、数日、数週間、あるいは数年では達成が難しく、10年・20年が必要とされる目標である。そのひとつに、「正面打ち一教」が入るだろう。他の技は、もちろんある段階までであるが、真剣に稽古をすれば短期で達成できるように思える。

苦節十年という言葉がある。「苦しみに負けず、自分の考えや態度を守り抜くこと、またその心」という(広辞苑) この「正面打ち一教」に挑戦し続けてきたことは、確かにこの言葉にふさわしいのではないかと思える。己のかけた「正面打ち一教」が効かず、何とか相手を倒そうと、理に合わない事をしてしまったりして反省したり、どうすれば自分が満足し、相手も納得してくれる「正面打ち一教」になるのか、研究し、試し、反省しと、試行錯誤を10年も繰り返してきたのである。

短期の目標は、若い人にも立てられるし、そしてその目標を達成することは短期間で容易であろうが、中期の目標、長期の目標を立てても、その達成は難しい。
この中期の目標、長期の目標の達成は、ある程度、時間的、精神的に余裕ができた高齢者の特権のようにも思う。

しかし、中期の目標、長期の目標は、若い内に持たなければならないものである。若い内に、中期の目標、長期の目標を立てて、その目標達成に挑戦していけば、10年後、30年後、50年後には達成されるかもしれない。もちろん、目標が達成されるかどうかは誰も分からない。もしかすると、達成されないかも知れない。だから、挑戦する価値があるわけである。必ずそれが達成されると分かっていれば、挑戦する価値などないだろう。

まずは、苦節十年を楽しんでみてはどうだろう。