【第428回】 猫背と胸鎖関節

街を歩いている若者に猫背の人を見かけることがあるが、最近では、多くの潜在的猫背人が見られるようになった。毎日長時間机に向かって仕事したり、勉強しているせいだろう。
猫背とは、座った猫の背中のように、背が後方に丸く曲がり,首が前に出た状態をいうが、この状態で頭部を安定させるために、僧帽筋や脊柱起立筋群に過剰な負荷がかかる。その結果、肩こりになりやすいし、また、人体に最適ではない姿勢で立っていたり歩いたりすることで、疲れやすくもなる。猫背の姿勢は落胆や自信のなさといった印象を与えることがあるので、できれば避けるほうがよいだろう。
猫背になってしまえば、治すのは医者や整体師など専門家に任せるしかないので、私がとやかく言うことではない。ここで言えるのは、どうすれば猫背にならないようにするか、ということである。

合気道の稽古に通っている人達には、猫背は少ないだろう。合気道だけでなく、他の武道やスポーツをやっている人達にも、猫背は少ないようだ。体を使っていることとも関係あるだろうが、体の使い方にも関係がある。

猫背は背中が丸くなる状態であるが、その意味するところは、まずその部位が固まってしまうこと、そして、胸が開かないので、閉じた方向にしか動かない、ということだろう。

従って、猫背にならないようにするためには、背中の筋肉を柔軟にすることと、胸が開くように体をつかうことであると考える。ただし、背中の筋肉を柔軟にしたり、胸を開こうとしても、なかなかうまくいかないものである。

この鍵を握るのが、胸鎖関節であるといえよう。胸鎖関節は腕の片方の末端であるが、この胸鎖関節を使う方法がある。胸鎖関節として動かそうとしても動かせないものだが、一本の長い手の一部として動かすと容易に動く。これは、息に合わせて動かすのがよい。息を入れながら胸を開くと、胸鎖関節は開いて、裏側にある背中の筋肉は中心の背骨に寄るが、次に息を吐くと、背中の筋肉がゆるんで開く。

胸鎖関節で背中の筋肉を動かすと、背中の筋肉は胸鎖関節に並行である横にだけ動くのではなく、十字の縦にも動かせることになり、背中の筋肉が柔軟になる。背中の筋肉を縦横十字に動かすのは容易ではないが、それができるのが、胸鎖関節であると考える。

この息づかいで合気道の技をつかうと、技がよく効くし、背中の筋肉の柔軟性も養成されるはずである。

外を歩く際にも、この胸鎖関節を使って歩くとさらによいだろう。ちなみに、最近の若者の歩き方、手の振り方は、胸鎖関節を使っての歩き方とは程遠いようである。肩で手を振って歩くのはよいとしても、最近では、その手の振りを進行方向ではなく、それとは直角の横に振っているのをよく見かける。

横に手を振る歩き方では、胸鎖関節が全然働かないので、背中の筋肉も柔軟にならない。このような歩き方をしていると、背中の筋肉が固まってしまって、猫背になりやすいのではないだろうか。

一般的には、肩を支点に手を振って歩いているが、年を取ると、胸鎖関節が動かなくなるようである。これでは、背中の筋肉がどんどん固定化し、動かなくなるのではないかと心配になる。

手を振って歩く際は、胸鎖関節を手の末端であると思って、胸鎖関節が動くように振るとよいだろう。技をかけるときと同じである。背中が柔軟になり、胸の開閉も自由になるはずだから、猫背にはならないだろう。転ばぬ先の杖である。