【第412回】 攻める健康

合気道の道場には、老若男女が稽古に来る。従って稽古の目的は各人違うだろうし、その優先順位も違うことだろう。だが、だいたいは若者や子供にとっては体力づくりが主な目的で、高齢者には健康増進や維持が中心といえるのではないだろうか。

合気道は健康によい、これは健康法である、と開祖はいわれていた。体のカスを取って、血液をきれいにし、新陳代謝をよくするからである。

道場で受け身でころがり、汗をかいて稽古すれば、高齢者だけでなく、多くの人が健康になることだろう。実際、稽古を終えたあとの清々しさには、肉体と精神がミソがれて、健康になったという実感を得るだろう。

しかし、若者や、武道として稽古に通ってきている人は、健康だけが目的で通っているわけではないだろうし、恐らくそれだけでは満足できないだろう。もちろん、健康は大事である。健康でなければ稽古もできないし、まともな生活も送れないことになる。

もちろん、武道として合気道に励む場合でも、健康が増進するよう、健康を害しないように、稽古していかなければならない。だが、これは必要条件としてのベースであり、目的ではなく、結果でなければならないだろう。つまり、健康を目的にして稽古するのではなく、健康を害さないように技を使うのである。

プロスキーヤーで冒険家の三浦雄一郎氏は、健康法には二種類あるという。一つは「守る健康」で、例えば、よく歩き、食生活を改善する、などである。もう一つは、「攻める健康」であるという。例えば、60歳になっても富士山に登ろう、マラソンを走ろう等という目標を持ち、そのために今の年齢以上の体力をつけることである。

彼は、「守る健康」はそれはそれで素晴らしいが、それだけではそれなりに健康に年を取っていくだけだ、ともいう。元気で、生きていてよかった、という人生を送るためには、何か目標をもって、「攻める健康」で生きていくのがよいだろう、というのである。

合気道も「守る健康」ではなく「攻める健康」で稽古をした方が、稽古をやってきてよかった、と思えるのではないかと思う。例えば、宇宙との一体化という目標をもって、稽古をするのである。これは健康法であるし、「攻める健康」ということができるだろう。

参考文献 朝日新聞掲載 2014/02/18
基調講演「攻める−年齢を超える」(三浦雄一郎 81歳)