【第395回】 人には歴史がある

人は誰でも一冊は本を書ける、といわれる。それは、自叙伝であるはずだ。人は誰一人として、まったく同じ生き方はしないし、できないから、同じ経験はできない。だから、自分の自叙伝を書けば、他の人たちには、自分たちが経験しない、思いもしないことが、書かれることになるだろう。もちろん大きい驚きや感激ではないかもしれない。だから、だれもが自叙伝を書くわけではない。金を出しても読みごたえのある人の自叙伝しか、世には出ない事になるのである。

人は、他人と同じ時間に同じ位置にいることもできないし、まったく同じ道をたどって生きていくこともできない。一人ひとり、各々別の道を歩んでいくのである。

また、人は他人に同調することもあるが、多くの場合は他人と違った方向に向かう性があるように思う。それに、人のやらないことや、人がやっていることとは違うやり方で、やろうとするようだ。学問の世界、科学の世界、ビジネスの世界など、その典型であろう。

これは人の性であると思うが、何かに導かれているようにも思われる。7,8百万年前の人類誕生から今日までこのような生き方が営々と続いてきているし、今後も続きそうである。

合気道的には、この何かとは宇宙であり、宇宙の意志ということになるだろう。宇宙楽園建設のために、人はお手伝いをしているのである。人は、宇宙の生成化育のお手伝いをする使命を帯びているのである。

人は分身分業で各自が使命をもち、宇宙生成化育のお手伝いをしている。ノーベル賞受賞者、政治家、科学者等などだけが、そのお手伝いをしているわけではない。人はみな使命をもって、そのお手伝いをしているのである。子供を育てているお母さん、その家族を養っているお父さん等も、宇宙生成化育のお手伝いをしているのである。

人は誰でも自分の使命をもって、宇宙楽園完成のためにがんばっているのである。人に認められなかったり、見過ごされる使命かもしれないが、宇宙完成には必要不可欠なはずである。なぜならば、完全な宇宙には、すべてのあるべきものが隙間なくなくてはならないはずだからである。小さくとも、穴あきの宇宙では、完成にはならないのである。

人は今にだけ生きているのではない。未来のため、未来に向かって、未来に生きているのである。

また、今の自分は、過去の人類の誕生からだけではなく、その前の哺乳類、爬虫類、魚類、等などともつながっている。過去のものたちが自分達の使命を果たしてきたから、緑と水の地球ができ、動植物が生存しているし、また、親があり、自分も誕生したのである。

人には、歴史がある。人ひとりひとりには違った過去と未来があっても、過去のどこかでつながっているし、未来のどこかでもつながっている。ここには、人の共通点がある。

過去の共通点から未来の共通点の間は、それぞれの使命の違いによって、生き方、やり方が違っていても、お互いに評価し、尊重しなければならない、と考える。得てして自分のやり方だけが正しく、他は駄目だと思いがちであるが、宇宙の目から見れば、きっと同じはずである。自分の歴史を自覚し、そして、他人にも歴史があることを認識すべきだろう。