【第386回】 心の輝き

合気道を長年続けて、年を取ってくると、いろいろなことが分ってくるし、これまでの考え、生き方、稽古のやり方なども変わってくる。

年を取ることは、生きたり、稽古をする日数が増えるわけだから、新しいものを見、新しい出会いがあり、考えること等が積み重なっていく。それにより、いろいろなことが分ってくるのに、不思議はない。

しかし、年を取ってきて、考えや、生き方、稽古のやり方なども変わってくるのは、不思議である。これは、前者が同質で量の変化であるのに対し、後者は質の変化である、といえよう。

後者の考えや、生き方、稽古のやり方などは、若かった頃とだいぶ違ってきている。私が若いころというのは、65歳の定年ぐらいまでで、仕事中心の生活であり、主に金や名を得、損得で価値判断をし、稽古も相手を倒すことに励むような、いわゆる物質科学の中に身を置いていたといえよう。

70歳くらいになると、まず、稽古のやり方が変わってきた。相手を倒すことには興味がなくなってきたし、生き方や考え方、例えば、価値判断や価値基準もかなり変わってきた。どう変わったのか、一言でいえば、物質文明から精神文明に変わってきたのである。つまり、ものより心を大事にするようになった、ということだろう。

なぜ変わってきたのか考えてみると、近い内にあちらからお迎えにくることがわかり、それを意識するようになるので、それまでに少しでも有意義に生きなければならない、と思うようになったからではないだろうか。それ故、今までのように、物を入手することや、物そのものに、興味がなくなってきたのである。若いころは美人や金持ち、有名人などに憧れたものだが、それも消滅したといえよう。

若いころは、美人や金持ち、有名人が輝いて見えたが、だんだんとそう思えなくなってきた。逆に、今、輝いて見えるのは、親と一緒にいる子供たちや、雨上がりの草花であり、真面目に一生懸命に働いている人、真面目に稽古している人、などである。

年を取ってくると、見えるモノ、つまり、モノそのものではなく、そこにある見えないもの、心に感動するようになるようだ。他人も自分をそう見ていることになるので、外見を飾るよりも、心を磨いた方がよいということになるだろう。