【第378回】 役割を果たす

町で高齢者を見ていると、多くの高齢者が体が弱っているだけでなく、気持ちが落ち込んでいるようで気の毒である。この高齢者も、若い時は元気はつらつと仕事をし、家族を支えて頑張ってきたはずである。

現代は物質文明優先であり、まだまだパワーの社会、若者文化なので、高齢者はこの文明社会からはじき出されてしまうのだろう。

演劇、舞台、歌舞伎、映画などにはそれぞれに役があって、役を演じる役者がいる。役者がその役割を果たせば、よいものができる。

人は誰でも一生懸命に生きているし、生きようとしている。つまり、無意識の内に、今の役割を果たそうとしているはずである。合気道的に解すれば、舞台は宇宙である。宇宙楽園建設のために、万有万物は分身分業で、役割を果たそうとしているはずである。

人の役は一つだけではないし、一時期だけのものでもない。役者は舞台や映画で役を果たすが、ひとつだけではなく、多くの役を演じるはずだ。また、家に帰れば、家族の一員としての役を演じなければならない。子供も、学校での役や家庭での役を、果たさなければならない。

子供が成人すれば、社会に出ることになる。経済的に自立するためには、仕事をすることになるが、その舞台でも自分の役を果たさなければならない。

その役割をうまく果たしていれば、同じ舞台で共演している仲間にほめられたり、舞台のまわりの観客、例えば、株主、競合他社、マスコミなど等からも、評価されることになる。

仕事をしていても、その内容が変わったり、転勤したり、また、子供が生まれて親になったり、役は目まぐるしく変わっていくだろう。しかし、人はそれらすべてを、なんとか果たしていこうとしているように思える。

そして、人は生産現場から撤退する定年を迎える。それまでは多くの役割があって、それに挑戦していたわけだが、挑戦する役がなくなってしまうのである。これが、今の高齢者の大きい問題であろうと考える。

かつては、高齢者には高齢者の役があったし、伝統が今でも続いているものもある。例えば、郷土の祭り、盆踊りなどの伝統行事は、高齢者が活躍する場である。経験豊富で知恵のある高齢者に、若者は信服して従ってやっている。若者は高齢者からできるだけ多くのものを学ぼうとし、高齢者は知っていることを全て教えようとしているのである。ここでは、若者の役は伝統を受け継ぐこと、高齢者の役は伝統を伝えること、ということになる。

このようなことは本来、祭りなどの伝統行事だけではなく、一般的なことでもあった。つまり原則的に、若者の役は学ぶこと、受け継ぐことであり、高齢者の役は、それまでに学んだ知識、経験から得た知恵、そして継承してきた伝統などを、後進に伝え残すことであるだろう。

それぞれの役割があり、その役割を果たすことができれば、人は満足できて、幸せになるはずである。役を演じ、その役割を果たすのは、役者だけではない。だれもが役者なのだ。高齢者になっても、役者としてその役を果たしていかなければならないだろう。

合気道の舞台においても、高齢者の役を果たしていきたいものである。