【第354回】 宇宙を楽しむ

年を取ってくると、それに従って「死」ということを考えることが多くなる。「死」は必ずくるわけだが、有難いことに、「いつ」来るのかわからないことである。だから、人によって「死」への関心や対処の仕方が違ってくるのだろう。

「死」は必ず来るし、近づいているのだから、残りの時間をこれまで以上に有効に使いたいと思う。これまでのことはやり直しが効かないわけだから、先のことしかやりようがない。この時間を有効に生きたかどうかは、死ぬときに分かるだろうから、そのとき後悔しないようにしたいものだ。

では、時間を有効に使うためにはどうすればよいのか、ということになるが、これは合気道の修行の目標と一致するようだ。合気道の修行の目標は、宇宙との一体化である。そのために日頃、稽古に励んでいるはずであり、これを残りの時間で最後まで続けることが、残りの時間を有効に使うことになる。

人は明るい人に魅かれる。陰気で暗い人は敬遠される。いろいろ事情があるだろうが、人は明るく考え、暮らしているのが、大御心のはずである。人類がすべて明るくなる日がくれば、そのときは地球天国になるはずである。

しかし、明るい人になるのは容易ではないだろう。人には、多くの明るくなれない問題や障害があることだろう。合気道の稽古においても、明るくしていられないような諸事情が頻繁に襲ってくる。

稽古でも日常生活でも、問題や障害があるのは、いってみれば当然であるともいえるだろう。しかし、だからといって明るくなれないはずはないし、少なくとも合気道を修行しているものは、そんなものに負けずに明るくならなければならないと考える。

自分もそうだったように、若いうちはそれが難しいかもしれないが、年を取ってくればできるようになるだろう。どうすれば明るくなれるかというと、何が起きようとも、ポジティブに捉え、何事もよい方に考えることである。

稽古で相手に技が効かず、徹底的に痛めつけられたとしたら、それをありがたい試練として感謝し、さらなる稽古の糧にすればよい。たとえば骨が折れたとしても、その部位が太くなり丈夫になると思えばよい。風邪を引いたら、体が休養を要求していると思い、体の指示に感謝し、膝や腰が痛ければ、これまでの体の使い方の誤りを指摘してくれていると感謝すればよい。また、昇段審査に落ちたとしたら、落としてもらったことに感謝すればよい。そんなレベルで昇段したら、後で恥をかいたはずだからである、等など。

すべてを楽しみ、感謝することは、宇宙を楽しみ、宇宙に感謝することである。 宇宙とは上下四方と古往今来であるが、「思想と技」の『第288回 宇宙の法則』で書いたように、宇宙とは時間と空間を超越した万有万物、つまり「万」(よろず)である。これを英語で言えば ”everything” ということになる。

すべてである万(よろず)を楽しむことは、宇宙を楽しむことにもなる。宇宙を楽しむということは、宇宙との一体化となるはずであるから、合気道の目標にも一致するだろう。

問題であれ、障害であれ、試練であれ、それを楽しむことは、宇宙天国建設の大御心にかなっているはずである。自分個人が楽しむということだけでなく、その問題自身、障害自身、試練自身を楽しむことになり、社会も国も地域も、そして万(よろず)が楽しむことになるはずである。

残る時間はすべてを楽しむように努め、少しでも宇宙との一体化を果たしたいものである。