【第28回】 体の部位からの声を聴け

若いうちは余り細かいことを考えないで体をいじめる稽古をするがいい。若いのに口で稽古をするようでは進歩はない。がむしゃらにやることで体力がつき、息使いがわかり、そして体で技を覚える。

高齢者になってこれをやれば体をこわしてしまう。高齢者になれば、今度は体と相談しながら、体を労わってやらなければならない。自分の弱い部位、稽古で大切な所など見つけ、意識して稽古しなければならない。これを意識して稽古しないと、どうしてもやりやすいように、また、惰性でやってしまうので進歩がなくなるだけでなく、体を壊してしまうことにもなりかねない。

稽古のやり方には2つある。一つは新しいことを学ぶこと、もう一つは自分の悪い癖を取り除き、間違ったやり方変えることである。若いうちは新しいことを学ぶのがいいが、高齢者になれば自分の悪いモノを取り除く方が進歩するし、体も痛めない。年を重ねて稽古を続けていくと、肩を痛めたり、腰が痛くなってきたり、膝が痛くなってきたりするのが増える。それはどこかに無理がある動きをしたことからくる、体からのメッセージなのだ。そのメッセージを真摯に受け止めてその原因を考え、稽古や生活での体の使い方を変えていかなければならない。

肩を痛めるのは、長年にわたる肩の無理な使いすぎである。肩を抜いた手の使い方をしなければならないのだが、これまでのやり方を変えるのは難しく、直すのは大変である。肩を抜く稽古をするのは、経験上、非常な決心と勇気がいるものである。肩が抜ければ、肩甲骨や菱形筋などが使えて、手先より大きな力を楽に出せるのだが、肩が抜けなければ、肩甲骨とか菱形筋を感ずることも出来ない。

腰を痛めるのは、体を捻って使うことから起こる場合が多く、体を捻らず、平面で使うようにすればいい。そのためには歩法を変える必要もあろう。 膝を痛めるのは、膝に負担を掛けすぎるからである。体の内側、裏に力を入れるからである。体の表を意識すれば、力は腰からふくらはぎ、踵といき、膝にはあまり負担が掛からなくなるはずである。

肩や腰や膝など痛めては稽古も続けられなくなる。傷める前にその部位から必ずメッセージがあるだろうから、それを真剣に受け止め、その部分と相談しながら、癖をとったり、不足のモノを補ったりして稽古をすべきであろう。