【第279回】 若い時の裏を生きる

どうも世の中のことは、裏と表のように対照的なものが一緒になって完成されていくように思える。何が表で何が裏なのかは、人や時代や状況によって違うだろうが、裏表は表裏一体になっているわけだから、どちらが表でも裏でもかまわないだろう。いずれにしても、一方が欠けていれば物事は完成しないのだから、欠けている方を満たしていかなければならないはずである。

他人の事はよくわからないが、自分の若かった時と60歳を過ぎた時とでは、ものの見方、考え方、価値観、体と体のつかいかた、生き方などが、大きく変わったし、まだ変わっていくようである。

年を取ってきて変わるということは、これまで逃げたり後回しにしていたことをやらされることになり、挑戦するようになったということのようである。また、それまでその重要性に気付なかったことに気付いたり、分からなかったことが分かるようになってきた、ということでもあるのだろう。

自分が若い頃と、それからどのように変わってきたかを、「生活一般」と「合気道」に分けて、思いつくままに対比表にメモしてみたら次のようになった:

若い頃 年を取ってきて
生活一般
遊び第一 仕事、読書、研究、勉強
自分を飾ろうとする(虚飾) 自分を育てる(実重視)
永遠に若くありたいと希望 よき老人になることに興味
若さ(若い美人等)に興味 老人に興味
若いのは素晴らしいと思った 若者の先の苦労を考え同情する
時間は永遠にあるように思った 残された時間を意識する
知識重視 知恵を重視
お金やモノ(家、車)等への憧れ 経済より人の心に興味
広く浅く興味を持ち、やってみる 狭く深く(合気道関係のみに興味)
自分の派生、存在意義不明で不安 自分の経験の意義と使命が判明
合気道
相手に勝とうとする 自分に勝とうとしている
相手を倒すために技を掛ける 相手が自ら倒れるよう技をつかう
力重視 精神力重視
弾く力が主 くっつける力が主
吐く息が主 吸う息が主
体の裏をつかう 体の表をつかう
表層筋をつかう 深層筋をつかう
なぜやるのかは分からなかった 合気之道をみつける
武道は教えて貰うものと考えていた 武道は自分で切磋琢磨するもの
自分自身の力だけに頼っていた 自分以外の力をお借りする

他人はどうであれ、自分を見てみると、若い時と年を取ってくるとでは、多くのことが対照的に変わったといえるだろう。つまり、若い時とは逆になったのである。

これを表裏、陰陽と考えれば、この両面が揃ったことにより、表裏一体、陰陽一体と、ひとつにまとまったことになる。この一体化したことにより、これをさらに磨けば悔いのない一生が送れて、合気道の修行も合気之道に即して完成に向かって進むことができると思えるだろう。

年を取ってきたら、自分の若い頃の「裏」を生きるようにするのもよいだろう。