【第278回】 筋肉がつくような稽古を

合気道は「気育、知育、徳育、体育、常識の涵養」であるのだから、体を鍛えることや、体を整えることは、合気道の修行の目標のひとつであるはずである。

しかし、年を取ってくると体力がなくなり、筋肉も落ちてくるようになる。人によっていつからどの程度、筋肉が落ちてくるのかは違うだろうが、なるべく筋肉を落とさず、年を取ってもますます筋肉がつくような体にしていきたいものだ。

50,60歳は鼻っ垂れ小僧と言われるが、それは思想や思考のソフトの面だけでなく、肉体というハードの面にも言えているのではないかと思う。つまり、60歳ぐらいで肉体的衰えなど早すぎるということである。

最近の人間の寿命が伸びているからかも知れないが、70歳でも筋肉はできてくるし、体力もまだそれほど衰えないようである。

しかし、高齢者、つまり70歳を過ぎてからの筋肉のつけ方と、若い時の筋肉づくりは、違わなければならないと考える。若い時のように筋トレなどやれば、筋肉は固まり、体を壊すことになるはずだからである。

それでは、高齢者の筋肉づくりはどうすればいいのかというと、まず、筋肉づくりの考え方を変えることである。

高齢者の筋肉づくりは、筋肉をつけるのではなくて、稽古や鍛錬の結果としてついてくるものでなければならない。つまり、筋肉をつけるための稽古をするのではなく、技の鍛錬や体のカスを取る稽古の結果として、筋肉がつくようにならなければならないだろう。

二つ目は、筋肉をつけようとすると、どうしても筋肉を求心力でつかったり、鍛えようとしてしまうものだ。特に、木刀や鍛錬棒を振る場合はそうである。求心力でやってしまうと、筋肉はどんどん固まってしまう。特に、年を取ってくると固まるのは早くなり、体を痛めることになるだろう。

筋肉を固めないで柔らかくするためには、遠心力を遣わなければならないと考える。筋肉を伸ばすのである。鍛錬棒など振る場合、重いので両手で振るだろうが、両手で振ると求心力で振りがちになるので、片手で遠心力で振るとよい。

慣れてくれば深層筋で振れるようになり、深層筋が鍛えられることになる。深層筋は年を取っても鍛え続けることができるらしいので、いつまででも筋肉がつくことになろう。

三つ目は、力まないことである。若い内は、力まないと稽古をしたような気にならないようだが、力んでしまうと、表層筋が硬くなり、その下の深層筋の働きを阻止してしまうので、力が出ないことになる。表層筋は筋肉もりもりにはなるが、深層筋がつかないことになる。年を取ってくると、表層筋は衰えてくるから、深層筋がついていなければ筋肉の衰えは明らかである。深層筋に働いてもらうためには、力まない稽古をしていかなければならない。

四つ目は、息遣いである。技や鍛錬棒を遠心力でつかうのも、力まず表層筋を固まらせないようにするためにも、呼吸が大事である。意識と体はなかなか繋がらないものだが、呼吸によって繋がり、連動するはずである。息を吐く、引く(吸う)の順序や場所(下腹)を間違えると、思うように体を動かしたり、技を掛けることができないことにもなる。

この他にもたくさんあるだろうが、そのひとつに栄養があろう。カップラーメンばかり食べていたら、若者は筋肉がつくかもしれないが、高齢者にはつかないだろう。また、水分補給も大事である。食べ物飲み物は年と共に気をつけなければならないだろう。

このようなことに注意して稽古をしていけば、けっこう筋肉はついてくるはずである。しかし、いつまで、どのくらいつくのかは、実験途中でまだ分からない。また、人によっても大いに違うものだろう。