【第25回】 弱いところを補え

若いときは自分の得意なもの、強いところを伸ばせばいい。四方投げが得意なら、四方投げを人一倍稽古して、得意技とすればいいし、力があるなら、力をもっとつければいいだろう。若いときの稽古は、自分の得意な技を見つけ、徹底的にそれを磨く、そして得意技をどんどん増やしていけばいいのだ。若いときは、不得意な部分が無意識のうちに得意なもののレベルに近づこうとするものだ。

高齢になったら自分の不得意なもの、弱いところを補うやり方がいいと思う。技の稽古でも上手くできない技や動き、弱い部分を鍛えるために、丁寧に稽古をすべきだ。特に、高段者が高齢になった場合、ある技ができないとか、自由に動けないとか、体のある部位が弱いとかだと、どんなに他の技が上手くとも、そして強くとも、人は納得しないだろうし、恥かしいかぎりである。

武道、武術の稽古でも、だいたい相手はこちらの一番弱いところ、不得意なところを本能的に攻めてくるものである。若い人は得意な技や動きで自信をもって向かってくるので、心してそれを受け止めてやらなければならないし、認めてあげなければならない。そのようなとき、高段者が上手く対処できなければ恥かしいし、相手を失望させることにもなる。多くの場合、人が相手の腕を評価する場合、強いところのレベルではなく、弱いところのレベルで評価するものだ。

若者のレベルアップは強いところを、高齢者のレベルアップは弱いところをレベルアップするのがいい。若者は得意な技や動きから、新しいこと、大切なものを発見しやすい。そして、それは他の技にも影響を与え、他の技もレベルアップする。高齢者は自分の弱いところを見つけるようにするのがいい。その弱いところのために先に進めなかったからである。その解決法が分かれば、他の技にも応用還元でき、また、前進することができ、それが全体的なレベルアップとなる。そうやって、弱いところや不得意のものをなくすようにしていきたいものだ。

人間は死ぬとき、体の全部が一斉に駄目になって死ぬわけではない。一番弱い部分のために駄目になるものだ。その一番弱い部分を見つけ、そこを改善し、補っていけば、その分、命を永らえることができることになろう。
合気道でも、弱い部分を補って、レベルアップを図ろう。