【第218回】 武道の目

世間ではよく、趣味は何ですかという質問を受けるので、合気道ですと答えるのだが、こちらが一生懸命にやっているつもりでも、合気道に対する反応はその割にあまり大きくはないようだ。別に、凄いですねとか面白そうですねなどと言ってもらうつもりはないが、世間の人達の武道に対する評価が低いのが少し気になる。

確かに、たとえ武道で鍛えた技が遣えたとしても、相手にとっては関係ないことだし、場合によっては、切った張ったと社会を乱すことにもなるなど、ネガティブな見方をしているのかも知れない。

しかし、合気道をつくられた開祖は、あれほど多くの超一流の方々を魅了されたわけだから、合気道をやっていて他人に評価されなかったり、無視されるのは、力不足ということになるだろう。まだまだ修行が足りないということである。

稽古で培うのは技だけではない。武道家としての目をつくることでもある。武道の目は、武道に必要不可欠であるが、武道以外の別の世界でも重要であることである。

例えば、武道では、相手の強いところと弱いところを一瞬で見分けなければならないわけだが、ビジネスの世界や一般社会でも、何が大事で、何が大事でないかが見えるようになるはずである。世間で騒いでいることに重要性を置かなかったり、また、世間が無視したり見落としていることに重要性をみたりすることでもある。

また、技を掛けるためには、相手の中心をつかなければならないので、稽古では中心を捉える修練をするが、たとえばビジネスでも、最も重要なキーポイントを掴めるようになるはずだ。いろいろなことがある中で重要なポイントは何かを見つけて、他のことに惑わされず、それだけにチャレンジすればよいわけである。

さらに、ビジネスではスピード、タイミングなどが大事であるが、合気道で技を上手く遣うにもスピードと拍子が大事なので、技でそれを見につければ、ビジネスでも遣えるはずである。決めたら、ぐずぐずせずに迅速に処理することである。

また、武道の基本は、逃げずに体と気持ちをまず相手にぶつけることなので、ビジネスや日常生活のどんな難題でも尻込みせずに、ぶつかって処理するようになるはずである。等などである。

道場でいくら技が上手く遣えても、道場の外で武道で培った知恵とノウハウが活用できなければ、ただの武道家でしかなく、寂しい限りである。家庭や一般社会、ビジネスにも有効な武道の目を、稽古を通して培っていきたいものである。そうすれば、あの人は武道をやっているから違うということで、武道家と武道の評価も高くなるのではないだろうか。