【第209回】 後進育成

先が見え始めてきた高齢者の役割は、後進を育てていくことではないだろうか。いろいろな分野において、高齢者は後進育成をはからなければならないだろう。多くの先人達がそれをしてきたから今があるし、未来があるはずである。親は子供を育て、事業も先輩から後輩にノウハウや技術を伝承し、芸能や伝統文化も親から子へ、また後進に伝承してきたことによって、今日まで伝わってきている。

もちろん、武道も先人が後進にその技や術や思想を伝承してきたので残っているわけで、後進に継承されなかった武道は消失しているわけである。

後進の育成は、家庭、学校、会社、芸能界、武道界等などで、やり方や考え方は違うだろう。それはその組織や各界の維持継承の仕方が異なるからであろうが、どの組織や各界も、永遠の継続を願っているはずである。しかし、中にはいろいろな事情で、その継続ができなくなり、途中で断続してしまうものもあるわけである。

いずれもできるだけ、永久に、つまり宇宙建国完成まで継続し、そのためのお手伝いができるように望んでいるはずである。
合気道も、開祖である植芝盛平翁がつくられて、後進がそれを受け継いできている。これからは我々開祖や先輩の後進の者が、我々の後進に伝承していかねばならない。

伝えなければならないことは沢山あるだろうが、伝えなければならないこととは、それを失うと後で見つけるのは困難なものということになろう。いわゆる失伝しては困ると思われるものである。開祖から教わったこと、またそれを土台にして会得した研究結果等である。

自分で会得したものの中には間違いはあるかもしれないが、それしか出来ないのだから仕方がない。後は、後進がそれを取るか捨てるか判断すればよい。そして、継承したものを精錬発展させて、それをまた後進に伝承していけばよい。

後進に伝承するのは、失伝すると困るようなエキスだけでいい。人は一人として同じ人はいない。人はそれぞれオンリーワンである。

後進を育成するということは、このエキスを伝承することと、オンリーワンを伸ばしてやることである。そのため、エキス以外の細かいことまで教えたり、直したりする必要はない。そのエキスをどう消化し、伝承していくかは、本人に任せるべきであろう。

合気道の稽古を見ると、同じ技をやっている時でも、みんな違った動きや体遣いでやっている。好き嫌いはあるだろうが、みんな自分のが最高だと思ってやっているはずだ。どの人のがいいのか、悪いのかなどは分からないはずだ。

花屋には沢山の花がある。その中で一番よいと思う花を買うとしても、みんながみんな、その花を買うわけではない。それがその店で一番よい花というのではない。他の人は、きっと他の花を買うだろう。だから、花屋には、多くの花があるわけである。もし誰にとっても絶対に一番の花というものがあれば、その花一種類だけあればよいことになる。

絶対最高の人がいるとしたら、みんなそうならなければならないわけだが、そんな人はいない。みんな一長一短あって、みんな違っていて、一人として同じではない。宇宙建国には、いろいろな人が必要なのだろう。

一人一人がみんな違っている。だから、人はオンリーワンなのである。自分のコピーを後進につくろうとするのは、誤りということになる。それはロボットにでも任せればよい。

しかし、それだからなんでも好き勝手に、気ままにやってよいということではない。やるべきことは、やらなければならない。例えば、合気道の技のエキス(例えば、宇宙の法則)を見つけ、それを少しでも深く追求し、身につけて行かなければならない。そして、それを後進に伝えるのである。これが後進育成ということであろう。それを受け継いだ後進は、それを土台にしてさらに追及できるのである。失伝してしまえば、後進はそれを自ら見つけるために0(ゼロ)からやらなければならないので、宇宙生成化育の観点からは無駄であろう。

合気道には形がないというのは、オンリーワンで行けということだろうが、先人から受け継いだエキスは、少しでも沢山身につけるようにしなければならないはずである。そして、それを自分なりに消化して、後進に伝えていくのである。これが、後進育成ということであろう。