【第192回】 高齢者の役割の一つの例(No.2)
前回は西洋と日本の違いを、思想、文化など大きく捉えて述べてみたが、今回は欧米で合気道を教えたり、ビジネスで彼らと接する場合に注意しなければならないマナーを、高齢者の経験と知恵として幾つか紹介したいと思う。
価値観や社会的基盤が日本とはかなり異なっている西洋諸国の人々とよい関係を保つためには、まず第一に彼らの常識や習慣を知ることである。これが時として日本とはまったく逆であるものもあり、初めは誰でも面食らうはずである。そのような常識や習慣において、日本人が注意しなければならないマナーの幾つかを紹介しよう。
なお、このテーマは、『ツールエンジニアリング』誌(2001.3.)に「国際的なビジネススタンダードのためのもう一つのソフト」と題して私が書いたものであるが、抜粋・修正して紹介する。
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- 目を見て話せ
人と握手したり話しをしたりするときは、相手と対等であるという自信をもって、相手の目から視線をそらさずに話すことである。目をそらして話すと、相手に疑いを抱かせ、こちらの話す内容を信用されない恐れがある。
- 名前を覚え、名前で呼びかける
人の名前を覚えることも非常に大切である。握手する際には、お互いに相手の名前を呼び合うのが普通である。日本のように、部長や専務などと役職で呼ぶことはない。名刺をもらったら、その後は必ず名前を覚えて呼びかけ、電話で連絡をくれる人にも、その人の名前を忘れずに明確に呼ぶのが礼儀である。
- 店や部屋に入るときは挨拶を
オフィスなど部屋に入る場合には、どんな偉い人でも「おはよう」「こんにちわ」などと言いながら入る。お店に入る場合や出る場合も必ず挨拶をする。(日本では、部下が上司に、店員がお客へ声をかけることになっているようだ。)
挨拶なしで黙って入ったりすると、相手はびっくりしたり、気味悪く思ったりする。海外の高級店で日本人の客がひんしゅくを買うのは、まずこれであろう。
- 「ありがとう」のタイミング
タバコやお酒を勧められて受ける場合に、日本では「ありがとう」と言って受けるが、ドイツでは少し違う。タバコの場合は、勧められたタバコを口にくわえて火をつけ、煙を一服出したところで、おもむろに「ありがとう」と言うのである。酒の場合は、酒をついでもらったり、受け取ってから「ありがとう」と言う。
日本と同じように、勧められた時点で「ありがとう」と言うのは、「結構です(No, Thank you)」の意味になってしまうので、外国では注意が必要である。
- 対話の社会 〜 言葉のキャッチボール
西洋は対話の社会である。言葉のやりとりで、その場の雰囲気づくりをしているので、言葉のキャッチボールが大切である。言葉を相手に投げない場合も、投げられたボールを返さない場合も、ペナルティーものである。ユーモアのある返答ができればよいが、できない場合はせめて表情だけでも和らげて、ジェスチャーでこちらの気持ちを伝える方がよい。
相手との気持ちの通じ合いが、買い物やレストランでも大切にされている。
- 話は大から小へ
ドイツ人や西洋人が話す場合、一番大切なことから話が始まって、徐々にその理由や具体的なことへと進む。日本の場合は、出だしは助走で肝心な話は最後になるが、西洋人と話しをする場合には、最初に一番大切なこと、例えばイエスかノーかを言うことである。
- イエス、ノーの使い方
「これはビールでありませんね?」という問いに対して、それがビールであれば、日本語では「いいえ、ビールです」と答えるが、英語やドイツ語では、「はい、ビールです」と答える。日本語は質問者の言ったことが正しいか否かで「はい」「いいえ」を言うが、西洋では、それが事実か否かで決める。
何はともあれ、イエス、ノーを曖昧に使っていては、相手は信用してくれないことになる。
- 理由なくおごるな
日本では、目上の人や先輩が下の者に、あるいは男性が女性に対して食事やドリンクをおごることが多いが、西洋では、いわゆる割勘が普通である。このことは特に、海外に出る若い日本の女性が注意しないといけないことである。
ただし、自分の誕生日や子供の試験合格などの理由がある場合には、それを理由に、同席している一同に酒を振舞うことが多い。そういう場合は、「おめでとう」と言って、遠慮なく受けてあげればいい。
- 間違いはすぐ直す
西洋では、こちらが相手の誤りを指摘しない限り、相手が正しいと認めることになる。だから彼らは仲の良い友人でも、少しのミスでも厳しく指摘してくる。
ドイツ人との会議でも、議事録に会議で話し合ったことと違ったことや不明瞭なことが書かれていれば、すぐに異議を申し出ることが重要である。さもないと議事録を正しいと認めることになり、後でトラブルのもとになりかねない。
- 日曜はだめよ
ドイツはとりわけ厳しいのかもしれないが、キリスト教諸国では、日曜日に働くことや大きい音をたてることは宗教的な罪になるので、日曜日には庭の手入れや日用大工などをしてはいけない。日曜日に芝刈り機を使ったり、掃除や日用大工の音などがうるさいと、近所の誰かが警察に通報し、罰金を払わされる破目になることが多い。
前回も述べたが、これらのことは学校でも家庭でも教えられないだろうから、もし子供や孫が海外で生活する場合には参考になるはずだし、合気道普及のために外国に行く若者にも心得ておいてもらいたいことである。
Sasaki Aikido Institute © 2006-
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