【第178回】 まだまだすべて未完

物事をかじり始めたときには、分かったような気分になるものだ。それまで全然知らなかったのが少し分ったのだから、嬉しくもあるだろうし、自分を褒めたいのも分かる。が、よく分かっている人から見れば、まだまだと見えるものである。

合気道を見ても、有段者になったとき、合気道が分かった気になる稽古人は多いようである。技の形(型)はある程度なぞれるようになっただろうが、実は、技はまだまだ出来ないし、そもそも「技」とは何であるかも分かってないのである。相手にしっかり手をつかまれると動けなくなったり、技が遣えなくなってしまう。

物事を知れば知るほど、自分はまだまだ何も知らない、まだまだ頑張らなければならないと認識するものである。科学者でも伝統芸能家でも武道家でも、達人や名人になれなるほど、常に自分はまだまだ未熟であり、これからますます研究や修行に励まなければならないと、いっているようである。神技を遣われていた開祖も、80歳を過ぎているのに、「まだまだ修行じゃ」とよく言われていたのを覚えている。

脳細胞は150億個ぐらいあるらしいが、実際に使われているのはこの内の数%であるといわれる。残りの95%以上は使用されておらず、空家か廃墟となっている。

脳細胞も必要があるから、こんなに沢山あるのではないだろうか。だから、これを創造したモノ(神)は、いずれすべての脳細胞は100%使用されるものとして創ったものと考えざるを得ない。もしそうでなければ、必要な仕事をする脳細胞はもっともっと少なくてよいのであり、必要になれば脳細胞を増やしていけばよかったわけである。脳細胞ははじめから、完成した人類が持つべき最高の脳細胞を創ったとしか考えられない。

宇宙が誕生して約140億年で、現在この時代を「銀河の時代」というらしいが、この「銀河の時代」は今後も一兆年ほど続くと言われる。ということは「人間の一生にたとえれば、今はまだ1歳にも満たない時期にあたります。」と天文学者の小尾信弥東大名誉教授は言う。(朝日新聞「宇宙の中で人間は一瞬」)

あと1兆年ほど経つと、今まで使われずに死んでいっていた脳細胞がすべて遣われるようになり、脳細胞は100%使用されるようになるのかも知れない。そのときはじめて、人はすべてのことを知った、分った、完全に出来たと言えるようになるのかも知れない。そのためには、先人の知恵を身につけ、新しい発見をし、そして、それを後進に受け渡していかなければならないだろう。それが、一瞬を生きる我々人間の使命ではないだろうか。

人間がその使命をあと一兆年ほど継続していけば、銀河と人類は完成するのかも知れない。その時、合気道も完成し、「出来た」と言えるようになるのかも知れない。一兆年後を夢見て生き、合気道を精進しようではないか。