【第16回】 アンチ・アンチエイジング(否抗加齢)

最近の社会は豊かになったのか、「アンチエイジング(抗加齢、抗老化)」という言葉が目につくようになった。サーチエンジンでアンチエイジングを引くと6万件以上のヒットがある。いわく、「10歳若返りたいひとのアンチエイジングストア」「30分で10歳若がえる」「アンチエイジングで自然な若返り」などなどである。
誰でも若くいたいだろうし、「若いですね」と言われたいらしい。

合気道の稽古でも、多くの高齢者が若さを誇るように、若者に負けまいと体を動かしている姿を目にする。腹筋や腕立ての筋トレをやっている高齢者もいる。俺はまだまだ若者には負けないぞと、誇らしげにやっているのを見ると、おかしくもあるし、寂しくもなる。力や肉体はいずれ衰えるものである。力は必要なので、ある程度の力を付けることも必要であるが、自分の体にあった無理の無い稽古をすべきであろう。若者は自分の限界を上回る鍛え方をしないと上達しないし、満足感も得られないだろうが、高齢者が若いつもりでそれをやれば体を壊してしまう。高齢者には高齢者のやり方がある。

アンチエイジングで稽古をしていけば、肉体的にも大変だろうし、精神上にもよくない上、肝心な目的を見失ってしまうことになる。ばたばたせずにゆったりと年相応に考えて動くのがいい。そしてその年相応の自分を技と稽古に出すのが、自分と相手を説得させる一番の力ではないか。人間の生殖能力は50歳ごろから低下するといわれる。50歳を過ぎたら残りはおまけの人生ともいえる。アンチエイジングで数歳若く見せようなどと無駄な苦闘と努力をすることなく、ありのままに稽古をし、生きるのが、自然であるし、見ていても気持ちがいいものである。

高齢者は若者に伝えなければならないことがあるはずだ。若者と同じやり方で魄の追求をしたのでは若者と対等になってしまい、若者が期待している知恵の伝承もできなくなってしまう。
往年の名女優オードリー・ヘップバーンは優雅で気品にあふれ、無邪気な役の似合う女優であったが、女優引退後、アンチエイジングのないしわだらけの顔を気にもせずに見せて、ユニセフの活動をしていたのが印象的であった。(写真)

合気道の稽古も若いうちは力いっぱいやり、50歳を過ぎたらヘップバーンのようにアンチ・アンチエイジング(否抗加齢)で行きたいものである。