【第125回】 頭も身体もやわらかく

生き物は年を取ると体が硬くなる。骨はスカスカになり、骨も筋肉も弾力性がなくなってくる。否応なしに、一寸の衝撃で骨折したり、捻挫したりするようになってくる。

人は25歳頃までは成長期、40歳頃までは停滞期、40歳頃以降からが衰退期に入り、60歳頃から急激な機能低下をきたし、老化していくといわれている。定年になって会社にも行かず、運動もしなければ、その老化の速度はますます早まるだろう。体はガチガチになり、頭は頑固になる。

人は本能的に楽な方へ楽な方へと行きたがるものであるようだ。それだからこそ、科学がこのように発達し、生活が便利になったのである。今はあまり歩かなくなったので、メタボリック症候群になったり、高血圧になったりする。便利は横着の産物と言えるだろうし、便利の代償は大きいとも言えよう。

自分の体の状態を知り、悪いところに気づき、その悪い箇所を改善しようとするのは、頭である。硬くなるのは体だけではなく、頭も使わなければ、年と共に硬くなる。どちらも、使わないと硬くなるものである。

人の動作や運動は、エネルギーと情報が体に入力され、その入力したものが脳の中枢神経に伝えられ、それが出力されて運動成果「パフォーマンス」をもたらすわけである。年を取ってくると、この入力(光、音、臭い、味、熱、蝕、圧)が鈍くなったり、入力から脳、脳からの出力というプロセスの機能が退化してくる。いわゆる老化である。従って、入力ができるように、体の感覚を少しでも敏感し、入力した情報を素早く取り込めるような柔らかい脳(頭)にし、このプロセスをスムーズに機能させて、素早い出力ができるように、日頃から鍛錬するほかない。

それには、合気道の稽古は最適であるといえるだろう。体を動かすことは、頭を柔らかくすることにも繋がるようであるが、合気道の稽古は、二人で組んで、投げたり受けを取ったりの相対稽古であるので、相手を見、触れ、圧し、圧され、音を聞き、熱や光を感じることになる。従って、体のセンサーは錆つくことなく、磨かれるわけである。

また、武道であり、武術的な要素もあるので、入力した情報は出来るだけ短時間に脳(頭)で処理し、手足に指令を出さなければならない。入力、脳、出力のプロセスを機能アップ、または機能維持をすることにもなる。体も頭も柔らかく維持するためにも、高齢者になっても、出来るだけ長く稽古を続けていきたいものである。

参考文献 『動きを生み出すこころとからだのしくみ − スポーツの精神科学』(あいり出版)