【第112回】 筋肉をつける

武道や武術では力は使う。力はすこしでも沢山あった方がいい。合気道でも力はいる。開祖は「米糠3合持てる力があれば合気ができる」と言われており、力を否定していたわけではない。それどころか、開祖はよく力自慢をされていたほどだ。開祖の言葉は、出来るだけ力をつけ、その力を出来るだけ使わないようにせよということではなかったかと思う。開祖はよく道場に入ってきて、我々がお互いに力を入れあってウンウン言いながら技を掛け合っているのをご覧になると、にこにこしながら「そんなに力を入れなくともいい」と言われ、内弟子を二三度軽く投げて道場を出て行かれたものだ。ところが、我々が真似をして力を入れないで倒す稽古をしているのが開祖の目に止まると、「そんな触れただけで倒れるような稽古はするな」と豪い剣幕で叱られたものである。つまりは、力をつけよということであったのだ。

若い内は力をつけて、合気の体をつくらなければならない。本当に力をつけたければ、自分の限界までやらなければ上達はない。若いときは、筋肉痛も疲れも一日寝れば消えてしまう。体の明日のことを心配しなくともいい。やればやるほど筋肉と力はついてくるものだ。

定年を迎えたり、年金を貰うような高齢者になると、若いときのような稽古はできないし、やる必要がないだろう。しかし若者とも一緒に稽古をするわけだから、若者に力負けしてしまっては、長年稽古をしている意味がない。高齢者でも長年稽古をしているのなら、それだけのことをしてやらなければ、若者は納得しないだろう。若者の力に対応できなければ、自分に恥ずかしいだけでなく、若者に「合気道とはこんなものか」と失望させることにもなってしまう。

合気道の力は呼吸力といわれるが、やはり筋力が必要である。人は年を取るに従って、筋肉が落ちていく。その上、運動量も減るので、筋肉の付きも小さくなる。特に、表層筋は著しく衰える。

一般的に、年を取ると筋肉が付かないと云われているようだが、そんなことはない。少なくとも70歳までは新しい筋肉は付くし、既存の筋肉を増強することもできると言う。但し、必要な部分を意識して鍛えることと、正しい方法で鍛えること、たんぱく質など栄養を摂る事が必要であろう。