【第102回】 成功の反対は・・

今、世界には、日本の人口である1.3億人の約50倍に当たる67億人がいるといわれる。金持ちもいるし、貧乏人もいる。健康な人もいれば、病人もいる。恵まれた人も、そうでない人もいる。一人として、同じ状況のひとはいない。また、すべてに理想的な状況にある人もいないといえよう。金持ちでも、健康に問題があるとか、時間がないとか、不幸だとか、あるいは貧乏でも健康で、毎日楽しく生きているとか、人はいろいろである。

合気道が出来る人は、幸せだといえる。何故ならば、稽古に通える経済的余裕があるのだから、経済的には恵まれている。次に、稽古に通えて、稽古に耐えられる体と健康に恵まれている。また、この忙しい時代に、稽古のために時間が取れるという状況にも恵まれている。このうちの一つでも欠ければ、稽古には来られないのである。多くの人は稽古がしたくとも、このうちのどれかが欠けているか、総てが欠けているために、稽古に来られないでいる。稽古ができる人は、稽古をできることに対し、感謝すべきであろう。

前述の条件は揃っていて、稽古をやればできるのに、やろうかなあと思っても、いろいろ理屈をつけてやらない人も沢山いるようだ。特に時間とお金に余裕ができてきた高齢者に多い。体力に自信がないとか、面倒くさいとか、何を今さらなどと言い訳をして、やらないのである。

最近、朝日新聞の「ひと」欄で、両腕がないハンディを越えながら中学教諭になって1年目の小島祐治さん(27歳)の記事を見た。彼は授業中、利き手となる右足の親指と人さし指でプリントを配り、挟んだチョークで軽快に音をたてて黒板に字を書くという。

4歳の頃に、大型車に両腕をひかれたために両腕がない。サッカー選手の夢などすべてを諦めたが、大学のとき、語学研修でニュージーランドの小学校に行ったとき、名前を足で書くと子どもたちの歓声に包まれた。「できることがある」。そう実感したとき、腕を失ったことを言い訳に、何かをする前から逃げていた自分に気づいたとのことである。そして教師となって、自分の姿を役立たせたいと考えたのである。「無理だと思えることだって、工夫して努力すればできることがある。そのことを伝えたい」という。

そして、今春の卒業を控えた3年生の最後の授業で、次のようなはなむけの言葉を贈った。「成功の反対は、失敗ではありません。何もしないということです」

小島氏に比べれば、ほとんどのひとは恵まれた条件にあるといえるだろう。思ったこと、やりたいことはほとんどできるはずである。失敗することはそれほど大きな問題ではない。大きな後悔にはならない。最大の後悔は「やらなかったこと」である。

人生の終焉に、「なにもしなかった」ことに後悔しないよう、今からでも、失敗を恐れず挑戦して行きたいものである。

資料: 朝日新聞 (平成20年3月25日)「ひと」欄