【第67回】 基本が大切

どんなことをするにも基本がある。稽古事にも勿論ある。基本とは誰もがはじめにやらなければならないことである。書道では楷書を手本に従って練習し、それから行書、草書へと進んでいく。絵画もデッサンをしっかりやり、しっかりした線で対象物を正確に描けるようにしなければならない。バイオリンやピアノなどの楽器の稽古でも基本の練習曲から練習し、どんどん高度なものへと移っていく。基本をやらずに好き勝手にやってしまえば、自己流になり、上達もなくなってしまう。

合気道の稽古でも、やらなければならない基本がある。まず、気の通った柔軟で強靭な体をつくらなければならない。このためには、受け身をできるだけ多くとることがよい。先輩や同輩に投げてもらうのもいいだろうが、自分で前受け身、後受け身などの一人稽古がよい。受け身をする時には、畳に自分の体がねばるような感触が持てるとよい。また、特に関節は鍛えておかなければならない。関節がある程度強靭でなければ、真の稽古には入れない。二教や三教の関節技をかけてもらって鍛えるのがよいだろう。はじめは力まずに、気を出して、限界まで我慢する。

やらなければならない基本のひとつは、股関節を柔軟にすることである。この稽古には坐技がいい。開祖がいらした頃は座り技が多かったが、坐技は重要ということだったのだろう。股関節が硬いと手さばきになってしまい、相手と結ぶのが難しくなってしまう。

合気道の技の基本は入身と転換ともいわれるが、転換の稽古は重要である。転換の稽古法には、転換法(運動)と入身転換法(運動)がある。入門した当時は、どの先生も稽古の始めや終わりに必ずやったものだが、最近はあまりやられていないようだ。転換には体の転換と気の転換があるが、なかなかこれが難しい。正しく転換すれば相手と同じ方向を腹と目が向いているはずだが、大体はへそ(腹)が相手の体の方を向いてしまう。また、体の転換よりもさらに気の転換が難しい。気持ちが相手との接点に居ついてしまうからである。この転換が自由にできなければ、技は上手く効かない。

合気道で技をかけるのはほとんどの場合は手であるので、手はしっかりした、折れない手でなければならない。手が折れるようでは技が使えない。しっかりした手を作るには、合気道の最大傑作の稽古法ともいえる諸手取呼吸法で稽古するのがいい。過ってはどの先生も稽古のはじめにやられていたが、最近は少なくなってきた。故有川師範は、合気道の技はこの諸手取呼吸法ができる程度にしかできないと言われていた。ということは、この諸手取呼吸法は高段者でもこの稽古は続けていかなければならない基本稽古法ということになる。

合気道の基本は、転換法、呼吸法、受け身など基本の稽古法にあるということになる。最近は世の中が忙しくなり、稽古人も余裕がなくなってきたのか、基本をじっくり稽古せず、早く技をやろうとする傾向にある。技は相手を倒したり、投げたり、押さえるテクニックなので、その方の興味が強いのだろう。しかしながら、基本で合気道の体や動きができなければ技もできないし、始めにできていてもその内には行き詰ってしまうことになる。行き詰ったり、技が上手くいかないときには、基本ができているかどうか見直してみてはどうか。