【第665回】  基本を知れば応用は無限

この「基本を知れば応用は無限」は、江戸時代後期から明治にかけての発明家で、「東洋のエジソン」「からくり儀右衛門」と呼ばれた、田中久重の教えである。彼は時計もつくった。それも西洋の季節によって昼夜の時刻の長さが同じ定時法ではなく、季節によって昼夜の時刻の長さの違う不定時法に対応した時計である。(写真)
江戸末期には佐賀藩で国産初の蒸気船である「凌風丸」もつくった。
当時の先進国であった外国に行ったこともなく、時計も蒸気船も蒸気機関車も見たこともないのにつくってしまったのである。
欧米の先進科学の翻訳書はあったが、正確な翻訳ではなかったはずである。何しろ翻訳者も外国を知らなかっただろうし、先進技術も見たこともなかったはずだからである。

田中久重は不完全な翻訳書や資料・情報で蒸気船や蒸気機関車をつくってしまったわけである。彼は正確な設計図や仕様書がなくとも、つくってしまうのだが、何故出来たかと云うと、基本がわかれば何にでも応用が効き、何でもできるという信念と実力があったからである。もし、基本的な技術や思考がなくて、蒸気船や蒸気機関車をつくろうとしても完成しなかったろうし、財の無駄遣いに終わったことだろう。

合気道の精進に於いても基本が大事である。基本が出来ていなければ応用技もつかえないし、上達もしない。
しかし、基本は難しい。何故ならば、はじめの内は、何が基本なのかわからないからである。何故わからないかというと、相手を意識した相対的な稽古に於いては、基本を追及するより、相手を制することが優先してしまうからである。それを乗り越えるためには、自分との戦いとなる絶対的な稽古に入らなければならないが、相当な時間が必要になるだろう。

基本は見えないし、これが基本だと示すことも難しい。また、自分では中々分からないものである。
しかし、基本を身につけなければならない。田中久重の科学の分野だけでなく、すべての分野にいえるはずである。
合気道の基本とは、合気道の基本的思想、基本技、基本的技づかい、基本的体づかい等ではないかと思う。


これらの基本が身に着いて、技をつかえば、応用技が自由に出てくるはずである。例えば、四方投げの基本が身に着いていれば、逆半身での片手取り四方投げでも10種以上の応用技ができるようになるものである。
応用技を無限に出したいならば、先ずは、自分のやり易い技で、基本を徹底的に身につける事である。