【第54回】 異質で勝負

合気道は勝負をするものではないが、相手を技で制することができなければ力不足か稽古不足、あるいは技の使い方が間違えていることになる。

合気道は体力や腕力がいらないとよく言われる。試合もないので、誰でも自分のペースでできるし、基本的に相手は受けを取らなければいけないので、力む必要もないから、と考えているようだ。

合気道の稽古で技をかけるとき、例えば、片手で相手が自分の手を持ってきた場合、こちらの持たれた手も1本、持ちに来る相手の手も1本である。1本と1本で頑張り合えば、どちらか力の強いほうが勝つことになる。スポーツなど、通常の場合、この種の"同質"の勝負となるので、勝つために筋トレなどして相手より強い腕をつくろうとするのである。

合気道は、この場合、鍛錬棒などを振って、強い腕をつくる努力もするだろうが、それよりも腕より強いものを使うようにしなければならない。それは腹であり、腰である。腹や腰の力を手に集め、その力を使えれば手より強力な力が出てくる。自分の手を例え相手が諸手で持ってきてもこの腹や腰からの力を使えば、相手の力を制することは可能であるはずである。何故ならば、どんなに太い腕といえども、胴体より太い腕などないはずだからである。

合気道は異質の力を使うことに一つの特徴がある。まず、体の表(背中や腰側)からの力を使う。通常、人は体の前面(裏側)からの力を使っているが、この力は意外と弱い。それに比べて表からの力は予想以上に強いのである。そのことが分かり易い例は、後ろ両手取りで押さえられた手と押さえる手の力の差である。どんなに後ろから両手を押さえられても、押さえている方は体の前面の裏からの力なので、表の力が使えれば押さえられている手は容易にあがるはずである。次に、肩を貫(ぬ)いた力を使うことである。人は普通、手を使う場合、肩から下の力を使っているので、強い弱いは腕力の差となってしまう。肩を貫くと体全部の力の他、引力など自然の力も使うことができるようになるのである。

次に、合気道の力は呼吸力という力である。通常の力は、出すか引くかのどちらか一方的な力であるが、呼吸力は出る力と引く力が一体化した力である。この呼吸力によって相手とむすんでしまい、相手を無力化するのである。さらに、合気道の力は、押しも押されもしないところの、所謂、「天の浮橋に立った」力である。この合気の力は、相手に不快な気持ちを与えることのない力なので、相手は抵抗することなく動いてくれる。また、合気道の力は螺旋である。螺旋で動くと、相手とぶつからず、相手を崩すことができる。

このように通常の力とは異なって、異質の力を使うのが合気道であるから、通常の力は要らないということである。通常の力を使っていては合気道の面白さは半減してしまう。「異質で勝負」の稽古をしたいものである。