【第537回】  持たせた手から上げない、動かさない

諸手取呼吸法を研究している。入門当時から稽古をしているわけだから半世紀になるが、本格的な稽古はここ10年ほどである。諸手取呼吸法は非常に大事な稽古である。有川先生がよく言われていたように、この諸手取呼吸法ができる出来る程度にしか技をつかえないようなので、この稽古を続け、呼吸力をつけ、そしてこの諸手取呼吸法の精度を上げようとしているわけである。

呼吸法とは呼吸力を養成するための稽古法であるから、小手返しや四方投げなどの技と異なり、相手を制し、倒すことが大事ではないが、やはり結果として相手が倒れなければ下手ということになる。
しかし、誰もが経験して知っているように、諸手取呼吸法は、受けの相手がこちらの手を諸手で真剣に持ってくれば、持たせたその手や体が容易に動かせないものである。

その理由は、こちらの一本の手を相手は2本で掴んでいるからである。だから、相手の二本の手の力より強い力をつかわなければならにことになる。それは体幹、特に、腰腹の力である。どんなに太い腕でも、また、喩え二本の腕でも、こちらの体幹より太くはないはである。
ここまでは、前に何度か書いてきたことである。

次の問題は、受けの相手も、稽古で段々と賢くなり、己の体幹て掴んでくるようになることである。体幹と体幹の力となり、このままでは5分5分となってしまい争いになってしまうから、この体幹の力より更に強い力をつかわなければならないことになる。

それは己の体重の力である。自分の体重からの力を手に集め、体重の移動、つまり重心の移動によって諸手取呼吸法をやるのである。体幹の力、腰腹からの力も強力だが、体重には敵わない。人の体重を片手にのせて、操作することなどできないだろう。

しかし、体重を持たせた手に伝えてつかうのは容易ではない。先ずは、前段階の腰腹がつかえなければならない。手先と腰腹を結び、その結びが切れないように腰腹で手をつかわなければならないからである。
これができてから、次の体重の力をつかう稽古に入れるようになるはずだからである。

体重をつかうためには、まず、居つかないことである。居ついてしまえば、つまり両足に重心がかかってしまえば、体重は3つ(右足、左足、中心軸)に分散されて、大きな力がでない。足は右左、陰陽で交互につかわなければならない。
体が一軸(頭―腹―足)になり、その軸が左右陰陽に動くのである。
体重からの力であるから相当な力になる。

この体重の力も、受けの相手も体重をかけてくると、また、五分五分になってしまう。その典型的な例は、相手がこちらの手に体重を掛け、ぶら下がるようにして持ってくる場合である。
そうなるとまた、この相手の体重に勝る力をつかわなければならないことになる。

これが先述の研究課題なのである。
それは自分以外からの力をお借りする事だろうと思う。天地の息と気(生命力)をつかわせて頂くのである。どうなるかは、これからの稽古でわかるだろう。

また、この段階からは、力(魄)を下にし、心・精神(魂)を表にした稽古をしなければならないと考えている。そのために注意することを、原点にもどって鑑みる必要がある。例えば、持たせた手から上げない、動かさないことである。合気道の技づかいの基本である、支点から動かしては駄目なのである。通常の四方投げや入身投げなどの稽古では、そうしているつもりだが、こと諸手取呼吸法になると、そのことが忘却の彼方に吹っ飛んでしまうようで、ついつい持たせた手から動かしている。これでは足も居ついてしまうし、重心の移動もできない。
原点にもどり、そして先へ進まなければならない。