【第52回】 目標と問題意識

世の中が豊かになり、ますます物質文明が栄え、スポーツは勿論、合気道などの武道の世界でもパワーに頼る傾向になってきている。合気道の稽古もよほど心してやらないと上達は難しい。試合もないし、形はあるものの技の規範もないので、どれが正しくて、どれが正しくないのか、分かりにくい。開祖がおられたころは、開祖のやられた技やいわれたことが規範になったので、その規範に照らして正しいとか間違いだとか判断できたものである。

合気道でも、人はみな、大なり小なり上手くなりたいだろうし、強くもなりたいはずである。できれば上手くて、強くなりたいだろう。合気道では、上手くなることや強くなることが最終目的ではないといわれるが、そのためのプロセスを着実に踏んでいかなければ、上手くも強くもなれないし、ましてや本来、合気道が目指す目標にも到達できるはずがない。

上手く、強くなり、上達するためには、問題意識をもって稽古しなければならない。一般に初心者などは、上達するにあたって問題があることさえ考えないだろう。まず、問題があるということに気付かなければならない。次に、上達を阻止する問題を見つけることである。問題を自分で気づき、そしてその答えを自分で見つけるのである。学校では、問題は出題者が決めてくれるし、答えも決まっているから、自分で問題をつくり、その上、答えを自分で考えるのは容易ではないだろう。それに、その答えが正しいかどうか、誰にもわからない。自分で判断するしかないので、よほど注意しないと間違った判断をしたり、自己満足に陥ってしまったり、諦めてしまうことになる。

上達するためには、できるだけ多くの問題に気づき、それをひとつひとつ解決していくことである。問題には、すぐに解けるものや、数年かかるような大きな問題もある。従って、複数の問題、課題を同時に解決すべく稽古をすることにもなる。人は完全ではないから、必ず問題があるはずだ。何の問題もなく、研究課題も持たずに稽古をしても上手くも、強くも上達しないだろう。

問題意識を持っていなければ、人の技を見ても、本を読んでも、人の話を聞いても、大事なことに気付かず、見流し、聞き流しをしてしまう。問題意識をもってそれを考えていると、解決策が目に留まったり、耳に聞こえてきたりするだけではなく、考えたり、悩んだりしている問題の解決策やヒントが、偶然、いろいろな形で集まってくるものである。