【第491回】  法則を技に入れていく

合気道は技の錬磨を通して精進していくわけだが、その錬磨する技は宇宙の営み・条理に則った法則を持つから、技を磨いていくことは宇宙の営みを身につけることになり、宇宙に近づいていることになる。

また、宇宙の法則が身についてくれば、その結果、技が生きてくることになり、相手も気持ちよく転がってくれることになる。

宇宙の法則を身につけるためには、まず宇宙の法則があることを信じなければならない。見えるモノしか信じることができない人には難しいだろうが、合気道の開祖もいわれていることだから、信じるしかないだろう。

信じることができたら、次はその法則を見つけることである。例えば、十字や陰陽の法則である。宇宙が生成され、営まれている法則であり、合気道の技の生み出しも、その法則は同じだからである。

これまでも、十字や陰陽で技をつかわなければ、効く技、よい技は生まれない、と書いてきた。相対稽古で技をかけ、受けを取って、法則を見つけていき、改善したり、試行錯誤しながら、身につけていくのである。

この法則を見つけ、そして、身につけていくのが稽古ということになるが、これは際限なく続くわけである。なぜなら、宇宙の法則は無限にあるはずだからである。

しかし、実際にはそう簡単に法則を見つけられないだろう。見つけようと思って見つかるものではないが、気がつかない内に見つけていたり、見つけていることを意識しなかったりするものである。

私の場合もまさにその通りで、過去に無意識でやってきたことが、今やっと意味がわかり、これが法則に結びつていると実感できるのである。

例えば、二教裏小手回しである。腕っぷしが強くて、二教裏がずっと効かなかった仲間に、ある時、突然、強烈に決まったのである。彼は、道場中に響くような悲鳴をあげて、吹っ飛んでいった。道場にいた人たちは何事かと心配顔でながめていたが、吹っ飛んだ本人は手首を痛めたわけでもないし、どこにも怪我もなく、どうしてそうなったのか分からないで、不思議そうな顔をしていた。悲鳴は、ただ驚いただけだったのである。

他の稽古人に対しても、こんなことが何度かあったので、私の二教裏が相当な威力を持つことがわかり、得意技の一つになったのである。

なぜ自分の二教裏が効くのか、その時はあまり考えなかった。ただ人より長く稽古していたので、力がつき、体のつかい方も身についたのだろうくらいに考えていた。

しかし、最近になって、技は宇宙の条理、宇宙の法則に則ってつかわなければならない、と確信を持つようになったので、改めて二教裏を法則に照らし合わせてみた。

二教裏の法則の内で、まず大事と思われるものの一つが陰陽である。手と足と腰腹を、右と左に規則的に陰陽につかうのである。初心者を見ていると、それがバラバラになっている。特に、最後に相手の手首を胸につけて下に落とす際に、足の陰陽を間違えるようだ。本来なら後ろ足に重心がかかり、そこから相手の手首を切り下すべきところを、前足に重心をかけて切り下しているのである。足を正しく陰陽でつかえば、このような態勢にはならず、全身の力を集中できる態勢になるはずである。

他にも、体の末端と体の中心の腰腹を結び、体の末端ではなく中心から動かす、相手との接点を先に動かさない、など大事な法則があるのだが、さらに大事な法則がある。それは息づかいである。イクムスビの息づかいと、天の呼吸と地の呼吸の十字の息づかいである。

二教で相手の手首を決めるときに、初心者などはどうしても息を吐いてしまう。これでは、相手の力とぶつかってしまうから、技にならないのである。それでも効くとしたら、それは相手に力がないか、倒れてくれているからである。

イクムスビで、縦(腹式呼吸)、横(胸式呼吸)、縦(腹式呼吸)の十字の呼吸をつかうときは、イーと息を吐いて相手に接したら、次にクーと息を吸う(入れる)のだが、ここで相手の手首を己の胸に引きつけるのである。後は、ムーと息を吐いて相手の手首を切り下すわけだが、これでもだいぶ効くものだ。しかし、腕の太い人や、腕力の強い人には、がんばられてしまうこともままある。

だが、ここに天地の呼吸、特に地の呼吸に合わせて技をかけるという法則を加味することにより、この問題は解決するのである。

上記の横(胸式呼吸)に、地の呼吸である「潮の干満」を加えるのである。胸式呼吸で息を吸いながら、相手の手首を己の胸にくっつけるが、これまでのように、ここからすぐ相手の手首を切り下すのではなく、さらに息を深く入れて、相手の手首を引き込むのである。二段式の干と満の息で、相手の手首だけでなく、心体をすべて取り込んでしまうわけである。

この時点で、相手のがんばる気持ちは消えてしまうから、あとは早くも遅くも、また、強くも弱くも、自由自在に処理することができるようになる。

上記の例の場合で、二教裏での陰陽、呼吸などの法則が身につくことになるわけだが、次にはこの陰陽や呼吸の法則を、他の技(形)で活用していけばよい。不得意でうまくいかなかった形(例えば、一教、入身投げ)や、初めてやる形などで、手足を右左、陰陽につかい、呼吸も天地の呼吸、潮の干満などの法則を組み込んでやるようにするのである。

相対での形稽古では、相手を倒すことに目標をおいて稽古するのは初心者の段階だけで、次には法則を技に入れていくよう、技が法則で満たされていくように稽古しなければならないと考える。