【第49回】 気を入れてゆっくりと

合気道は形(かた)を繰り返し稽古する。はじめは基本の形を覚えることに一生懸命だろう。基本的な形を覚えるのはそう難しくなく、まじめに稽古すれば誰でもできるようだ。しかし、形だけでは相手を倒すことも制することも、よほどパワーがないかぎり難しい。その為には技が必要である。技は非常に複雑で繊細であり、自然の理にかなっていなければ効かないので、完璧な技をすべて身につけるのはほとんど不可能といえる。従って、稽古は正しい技を少しでも多く身につけることになる。

技を身につけるためには、形を繰り返し々々稽古しなければならないが、ただ繰り返せばいいわけではない。むやみに何百回、何年稽古しても上達はない。
合気道は万有の理に即していなければならないのだが、やっている技が万有の理に合っているかどうかを感じるためには、よほど心を無にして体を敏感にして稽古しなければならない。

正しい技を覚え、正しく動くためには、ゆっくり動いて稽古することである。ゆっくり動くとは、普段の速度よりも遅く、しかし、普段より気を入れて動くことである。早く動いても、むやみに動いたのでは、動きの軌跡とリズムが崩れて、相手との結びが解け、スキができてしまう。初心者は早ければいいだろうとばかりスピードでごまかしてやっているが、それでは、要所々々にスキが出てしまう。つまり、相手との結びが切れるので、その切れたところで相手が頑張ったり反撃したら、崩されてしまうことになる。例えば、四方投げで、体を転換するとき、早くやるとどうしても腕がまがったり折れたりして緩んでしまい、一寸引っ張っただけで後ろ向きにひっくり返ってしまう。

技を磨くためには、まず、ゆっくりとやることである。自分の手足を隅々まで感じ、意識を入れ、呼吸に合わせて動き、自分の動きが相手の体と気持ちにどのような反応を起こしているか、感じながらやるのである。自分と相手を感じながらゆっくりやれば、新たな発見や感動を得やすい。

ゆっくり動いて技が有効に機能するようになったら、今度は早く動く稽古を繰り返すとよい。もちろん、どんなに早く動いても、相手との結びが解けてはいけない。そのような稽古によって、ゆっくりでも早くでも思い通り動けるようになるものである。

稽古相手は老若男女と多種多様である。どんな相手に対しても自分のやり易い動きでやるのでは、相手にも迷惑だろうし、自分の進歩も阻むことになるだろう。合気道は陰陽の理に則っている。早いのとゆっくりという陰陽が必要である。技を早くやりたければ、ゆっくりやることである。