【第479回】  上達

この論文のテーマは上達の秘訣ということであるが、今回はこの上達の秘訣の「上達」について考えてみたいと思う。つまり、上達とはどういうことか、上達するためにはどうしなければならないか、等である。

まず、上達の意味を考えてみたい。上達とはレベルアップということで、あるレベルから少し上がることである。上がるということは、そのレベルアップのために、上達するための目標があって、その目標に近づく、ということである。従って、目標がなければレベルアップ、つまり上達のしようがないことになる。上達しようと思えば、まずは目標をしっかり持たなければならない。

目標ができれば、そこに道ができることになる。目標と自分を結んだものが、道である。その道を進むのである。一歩でも先に進めば、上達ということになるのだが、時には道を外れてしまうこともあるだろう。道から外れることを外道というから、注意しなければならない。

次に、上達するためにはどうしなければならないか、ということである。稽古の段階によっても違いがあるが、稽古していれば上達するような初心者の段階は別として、本格的な稽古に入った段階での上達について書くことにする。

この段階に入ると、初心者の段階とは違い、稽古をただやっていれば上達するということはない、といえる。もちろん、稽古をやらなければ上達はないわけだが、稽古を長くやるのは必要条件であって、十分条件ではないのである。必要十分条件は、上達するように稽古を続けていくことである。

上達するためには、レベルアップが必要であるから、自分の限界を乗り越えていかなければならない。自分の限界内で稽古していたのでは、自分の枠の中に留まっているだけで、レベルアップにはならない。つまり、サナギのままで固まってしまうことになる。

全身全霊を傾けて、力いっぱい、息いっぱい、気持ち一杯で、稽古しなければならない。道に外れないよう、ごまかさず、自分に正直にやらなければならない。それには、相手にしっかりとつかませ、打たせるなど、相手にも十分働かせてやらなければならない。相手を投げたり抑えたりすることを目標にしてしまうと、肝心な稽古ができなくなり、道を外れてしまう。

稽古では、自分のレベルを紙一重でも上げていくように心がけることである。そのように心がけて稽古していけば、それまでできなかったことができたり、見えなかったものが見えたりするようになるだろう。そのちょっとしたこと、いわゆる紙一重のような些細なことが、身につくのである。これが、レベルアップである。

この些細な紙一重とは、一見すると些細なことであるようだが、実はこれは、今後、他の技でも活躍するところの「無限の宝」なのである。たとえそれがちょっとした手の動きであったり、その技のほんの一部であっても、それは他の技でも有効になるはずなので、すべての技、すべての動きや思想にも有効に結びつくことになる。つまり、紙一重の上達は、同時に他の技もレベルアップさせることになり、無限の上達であるということである。

上達するためには、思い切りやらなければならない。力一杯、息一杯、気持ちを込めてやるのである。ただし、相手に怪我や迷惑をかけないようにしなければならない。

そのためには、法に則って技をかけ、息に合わせて体をつかい、腰腹から力を出して、そこで思い切りやるのである。