【第466回】  法則を教えてくれる基本技 その3.「十字」

宇宙は十字で成り立っており、十字に生成化育している、というのが合気道の教えであろう。そもそも宇と宙は時間と空間のことであり、宇宙とは時間と空間の十字ということになる。また、万有万物は魂と魄の十字といえよう。十字とは異質なものの組み合わせで、それによって最大の働きができる姿、といえるだろう。

なお、合気道でいう宇宙とは、天文学的・物理学的にみた狭義の「宇宙」ではなく、神羅万象(あらゆる物事)を含むすべての存在を指す広義の「宇宙」である。

人間の体は、宇宙がつくった、宇宙のミニチュア版といわれている。確かに自分の体を観察してみると、そう思うしかない。必要なものは取りつけられていて、最大限機能するようにできている。とても人工的につくれるものではない。

その摩訶不思議な体の内でも、関節は特に興味深いものである。お互いの関節は十字に組み合って、うまく機能するようにできている。例えば、手首と肘、肘と肩、体幹と脚の組み合わせと機能、等である。

宇宙の法則のひとつは十字である、といえよう。これは、十字にできているということと、十字に機能しているということであろう。従って、合気道の技も十字につかわなければならないし、技をつかう体も十字につかわなければならないことになる。

相対稽古で技をかける際には、十字に体をつかい、十字に技をかけないと、うまくできないはずだし、実際に技が効かないものである。だが、十字が大事であると思い、十字に体と技をつかおうとしても、相手を倒すことに忙しくなると、それがいつしか忘却の彼方へと行ってしまい、なかなか十字の効果や必須性を実感できないのが現状ではないだろうか。

そこで、その十字の効果と、それが解りやすい基本技を、私の体験から紹介してみよう。それは正確にいえば技ではないのだが、この場合は同じ基本ということで、あえて基本技として紹介してみる。

それは、呼吸法である。呼吸法は十字を身につけるのに最適な稽古であり、十字の重要性をもっともよく教えてくれるものであると思う。

諸手取り呼吸法は、手と腰を十字につかわなければ、大した力が出ないものであり、抑えられて動けなくなってしまう。持たせた手を縦、横、縦と十字に返すのであるが、腰が左右の足に交互に乗るようにしながら、十字に返していくのである。

多少力のある相手に諸手で持たせたとしても、持たせた手だけを縦から横、そして縦に十字に返すだけで、相手は浮き上がってくる。十字だけでも相当効くことがわかるだろう。

もっと力一杯稽古したいのなら、この十字に加えて、息を十字につかうのがよい。相手に手を持たせるまで息を吐いて(縦の腹式呼吸)、相手と接したところから息を入れ(横の胸式呼吸)、相手を投げたり地に沈める時に息を吐く(縦の腹式呼吸)と、イクムスビの十字の呼吸になる。

呼吸法で十字がつかえるようになれば、他の基本技でも十字がつかえるようになるはずである。十字の法則を身につければ、宇宙がひとつ身に着いたことになるだろう。