【第409回】 グランブルーの世界と合気道

われわれ一般人は、地球の表面である陸地に住んで活動しているが、地球には陸地だけではなく、海や山もある。人間というのは、好奇心のある知りたがり屋のようで、陸を知ると山や海も知りたくなるようだ。特におもしろいのは、機械や器具を使わないか、最小限の装備で、極力自分の力で挑戦する場合である。

典型的な挑戦としては、高い山を酸素ボンベなしで登山することや、ボンベなしで深海に潜るフリーダイバーであろう。フリーダイバーは深みを目指し、登山家は高みを目指す違いはあるが、彼等は我々が合気道で求めているのと同じものを求めたり、体験しているのではないかと思われるのである。

フリーダイバー達は、ボンベなしで到達できる限界深度と思われるグランブルーの世界を目指しているが、その世界に入るのは容易ではなく、また、その世界に入ると、日常とは気持ちや考えが違ってくるという。

100mまで潜れるフリーダイバーは、世界に10数人しかいないということだ。彼らは体を鍛え、そして体や息の使い方にも細心の注意をしているようである。

日本にもひとり、100m以上を潜れるプロのフリーダイバーがいる。篠宮龍三氏である。(写真)彼の記録は115mである(2010年)。

篠宮ダイバーは、まず無心で潜らなければならない、という。人に勝つとか、記録を出すなどと考えず、やるだけやって、向こうからくるのを待つそうである。つまり、自分との限界の戦いである。これは、合気道の稽古と同じであろう。

潜っている内に、別の世界に入った感じがするという。自然に溶け込む感じがして、海が自分を赤ん坊に引きもどし、海が本来の居場所だと思うようになるそうだ。

この際に大事なことは、力を抜く事であるという。海との調和を大事にすると、海と自分との境界がなくなり、海が浸透してくる、というのである。

合気道をつくられた開祖植芝盛平翁は、恐らくこのような境地の別世界で、演武をされ、われわれを導いて下さったのではないかと思う。我々も「グランブルーの世界」で、合気道の稽古をしていきたいものである。

参考資料 NHK BS プレミアム「どこまでも深くグランブルーへのダイビング」