【第407回】 フローな心の状態で

合気道を技の練磨で精進していくためには、自分の体と心をどんどん掘り下げていかなければならない。掘り下げていくということは、今いる世界から見えない世界へ行く事だと思う。なぜ見えない世界に行かなければならないかというと、今まで日常生活で見えなかったものを見、感じなかったことを感じるためである。

しかし、深い心の世界、魂の世界に入っていくのは、容易ではない。俗世のことを引きずり込んだり、稽古への集中力が欠けたりして、稽古に没頭できなければ、深いところへは入っていけないし、さらなる精進も難しいことになる。

稽古に集中し、没頭していくと、体から「これはまずい、これはいい、ああしろ、こうしろ」等などのメッセージが送られてくる。また、相手の心ともつながってくる。こういう状態に入ると、よい稽古ができてくるもので、楽しくなるし、合気道のすばらしさや摩訶不思議さ、人の体の複雑微妙な不思議さ等などを感じ、時間や疲れなどを感じなくなる。

このような状態に入ると、よい仕事ができるのであれば、そのような状態に入って行くのがよいことになるだろう。このような状態を、心理学の世界では「フローな状態」とか「フローな心の状態」といって、心理学者のミハイ・チクセントミハイナ博士(写真)によって提唱されたものだという。

博士は「フローな状態」を、集中力が抜群で、活動に完璧に没頭できる心の状態、といっている。「フロー(英語: Flow) 」とは、人間がそのときしていることに完全にひたり、精力的に集中している感覚に特徴づけられるもので、完全にのめり込んでいて、その過程が活発さにおいて成功しているような活動における精神的な状態をいう。

博士は、その著書『フロー体験 喜びの現象学』で、フロー状態になると、次の8つの要素の体験ができる、と述べている。

  1. 達成できる見通しのある課題に取り組んでいる。
  2. 自分のしていることに集中できる。
  3. 行われている作業に明瞭な目標がある。
  4. 直接的なフィードバックがある。
  5. 意識から日々の生活の気苦労や欲求不満を取り除く、深いけれども無理のない没入状態で行為している。
  6. 楽しい経験は、自分の行為を統制しているという感覚を伴う。
  7. 自己についての意識は消失するが、これに反してフロー体験の後では自己感覚はより強く現れる。
  8. 時間の経過の感覚が変わる。(数時間は数分のうちにすぎ、数分は数時間に延びるように感じられることがある)
合気道の稽古にも、この8要素はすべて当てはまるようだ。これらの要素を体験するように、フローな(心の)状態に入れるよう、稽古していくのがよいと思われる。