【第393回】 基本準備動作

最近気になるのは、稽古に行き詰っている稽古人をよく見かけることである。長年稽古をしてきて、力もあり、体もできているのに、技が思うように使えず、進歩がないと感じ、先の上達も期待できない、と悩んでいるようである。

実際には、少し力を入れて手を掴まれたりすると動けなくなったり、相手の手から外れてしまったり、あるいは足が止まる、手が止まる、などして、相手が思うように倒れてくれないのである。

今の合気道の稽古では、時間のほとんどが相対で技をかけ合うことに使われている。私が稽古を始めた頃は、まだ開祖がご健在であり、技の稽古に入る前や最後に、体の進退動作(継足、歩み足)、膝行、体の変化、一教運動、呼吸転換法、後ろ両手取りからの手の返し運動、手首関節柔軟法(小手回し法、小手返し法)等などを、単独動作や相対動作で必ずやっていた。

今になると、これが大いに役立っていることが分かるのである。つまり、このような基本準備動作の稽古が、技を使う時の要所々々で生きてくることになる。従って、これらの基本準備動作の稽古がなければ、大事な要所でうまくいかないこともあるのではないだろうか。

「基本準備動作とは、技に移る以前の動作」(「合気道技法」)とあるが、当時はどの先生も、時間に長短があったものの、必ず基本準備動作をされていた。ある先生などは、1時間の稽古の内の20分くらい、それに費やしていた。われわれ若い稽古人は、早く技の稽古がしたくてうずうずしていたので、早く準備運動が終わるように内心では祈っていたものだ。それでも、基本準備動作はまじめに一生懸命やっていたし、休み時間には先輩のお相手をさせられたり、互いにやり合って研究していたものである。

「基本準備動作」とは、合気道でもすべての武道同様に、最も大事にされている「基本動作」中のひとつの稽古テーマである。

基本動作には、「礼」「構え」「間合い」「捌き」「気の流れ」「先」「力の使い方」」坐法」「「受け身」それに「基本準備法(動作)」等がある。このような基本動作は「すべての武道の修行過程がそうであるように、合気道においても基本動作の練磨は最も大切な部門である。この鍛錬を除いては、技術の上達も、精神の向上もあり得ない」(「合気道」)とされている。

従って、基本動作の中の基本準備法・動作を鍛錬しなければ、上達はないことになり、早期引退に結びつくことになるわけである。

今でも、相対動作による転換や手首関節柔軟法はやられているが、当時に比べると、かなり軽視されているように思われる。

後進を育てるためにも、開祖監修、植芝吉祥丸二代目道主著の『合気道』『合気道技法』を研究し、基本準備法・動作および基本動作を鍛錬していくような稽古にしていかなければならないと考える。

後進たちは、基本準備法・動作を鍛錬された先生や先人から今の内に受け継いでおいてもらいたいものだと思う。そうでなければ、いずれ変形したり、消失してしまう恐れもあるかもしれない。これも他の文化同様、一度生滅すれば、再現は難しいだろう。