【第375回】 個性化に向かう

合気道の教えによれば、宇宙を創造した一元の大御神は宇宙楽園を創るために、万有万物に分身分業で使命を与えられた。人も分身分業で各自の使命を果たしていかなければならない、という。分身分業ということは、宇宙楽園建設という共通の目標に向かい、各自が異なる使命を帯びている、ということになる。

人は無意識のうちに、各自の使命のための個性化へと向かう傾向にあると言えるだろう。個性化とは、自己実現ということである。

しかし、この道を歩むためには、自分の内界、つまり無意識界に目を向けなければならないが、「この内界は、自我によってコントロールできない、あちらの世界」であると、心理学者の河合隼雄は言う。つまり、意識して頑張っても、この道は進めないということである。

では、どうすれば個性化への道を進めるのだろうか。合気道にはその道があるようである。その最高の証明が、合気道をつくられ、修行された植芝盛平翁である。だから、開祖の言われていることを熟読玩味して修行していけばよい、と考える。

合気道は非日常の世界である。合気道の稽古を日常生活の延長線上でやっても、あまり大した意味はない。日常的稽古と非日常的稽古の違いは、意識の世界でやるか、無意識の世界に入って(または、入ろうとして)やるか、の違いだと考える。無意識の世界、内界に入ってやるから、個性化に向かうことができるようになるのであろう。

意識の世界でやると、カッコいいところを見せようとか、相手をやっつけようとか、負けまいとする方へ、気持ちが向いてしまうことになりがちである。これでは、内界に入ることはむずかしくなることだろう。

参考資料  『無意識の構造』(河合隼雄 中公新書)