【第368回】 着実に積み重ねていく

合気道は技の練磨をしながら上達していく武道であるが、映画や漫画の主人公のように短時間で突然うまくなることはできない。相対稽古で同じ技の形を何千回、何万回、何十万回と繰り返し繰り返し試し、改善し、身につけ、少しずつ上達していくのである。

上達の仕方や早さは、人によって違う。それは、人それぞれ体力、才能、努力が違うからである。トップレベルのスポーツマンは、この全てに最高のものをそろえていることになる。しかし、合気道はスポーツと違い、他人と争うわけでもないし、他人と比較をする必要もないので、他人をスポーツのように意識する必要はない。最も大事なことは、自分に勝っていくことである。

体力と才能はほぼ決まっていて、改善は難しいわけだから、上達する上で特に大事なのは、唯一可能性のある「努力」ということになる。

しかし、努力は誰でもそれなりにやっているし、やろうとしているだろうが、実際には、どうすればよいのかよく分らないものである。面倒をよく見てくれる先生でもいれば、的確なアドバイスをくれるだろうが、一般的には誰も教えてくれないだろうし、教えることはできないはずだ。

従って、基本的には、どう努力すればよいかは、自分自身で考えなければならないことになる。

合気道の稽古においては、努力とは短期間のことではなく、長期的、もしかすると永遠的なものなのであるだろう。技の練磨、体をつくる、宇宙との一体化などなど、どれも一生ものである。

人とは宇宙が最後に創造したものであると教わっているが、人は確かに宇宙に適合するように創られていると思う。人は朝起きて夜寝るという一日を単位(区切り)として生きており、四季にも適合しながら生きているので、一年を螺旋状に昇りながら生きているといえよう。

これが自然であり、人はそう生きるべきであろう。そして、合気道の稽古もその自然のリズムに従って努力すべきだろう。

例えば、一日の単位(区切り)で生きているわけだから、稽古も一日一日と毎日稽古をするのが自然だろう。毎日やれば、前の日の稽古につながり、螺旋状に昇っていくわけである。

これを、日を置いてやると前の事は忘れるだろうし、前回につながるのに時間がかかる。また前回につながったと思ったとたんに、その稽古の時間が終わってしまい、前回と同じ状態で終わってしまうことにもなりかねない。このような稽古を続けても、上達はなく、いつまでたっても同じレベルに甘んじなければならないことになる。

稽古は、地味なものである。毎回、薄紙を一枚づつ積み重ねていくようなものである。一日では、見えるか見えないか分らないぐらいの上達だろう。その積み重ねが、一年でちょっと見えるくらいの厚紙になり、十年ぐらいでダンボール紙程度となるくらいのものであろう。他人はほとんど気がつかないようなものなので、そこに本人とのギャップができて、時として相対稽古で争いになったりすることにもなるようだ。

稽古を休んだり中断すれば、せっかく積み重ねた薄紙がはがれたり、固まってしまうことになる。宇宙のリズムに合わせて、毎日、少しずつ新鮮な薄紙を積み重ねていかなければならない。

毎日、それを積み重ねていくと、自分で凸凹が分かるようになる。自分の強い部分と弱い部分である。武道や武術の原則は、相手の弱いところを攻めるということであるから、弱い部分は無くすようにしなければならない。そこに薄紙を張って、凹を埋めなければならない。

もうひとつ、毎日やることがある。それは、合気道を勉強することである。つまり、考える、本を読む、等々である。

一番のお勧めは、『合気真髄』『武産合気』を毎日読むことである。解らなくとも読み通していくのである。初めはほとんど解らず、せいぜい1つか2つくらいしか解らないかもしれない。しかし、2回目になると10,20となり、だんだんと解るようになるであろう。おそらく、すべてを理解するのは至難の技であろうが、これもひとつひとつ積み重ねて行くしかない。

上達したいのなら、毎日、稽古しなければならない。毎日やると、前日の問題とその解決したことが稽古に現れる。それを土台にやっていくと、さらなる課題や問題が出てくるから、それを解決する。この繰り返しが稽古であるが、毎日やればありがたいことに、いろいろなものが応援してくれるようになる。

といっても、仕事をもったり、家庭をもったりすると、毎日、道場に通うのはほとんど不可能であろう。そういう場合には、自主稽古がある。毎日、無理なくできるメニューを自分で考えてやるのである。家の中とか隣の空き地とか、毎日できる場所で、できるメニューをこなすのである。

はじめは、小さく始めればよい。やっているうちに、やりたいものが増え、メニューがふくらんでいくはずである。しかし、焦らずに毎日やることが大事である。5年ほど続ければ、効果が出てくるはずだ。これも着実に積み重ねていくしかない。